第三百七十六夜   八月に入って急に猛暑がやってきた。事務所内は冷房を効かせてそれなりに涼しいものの席により個人により体感温度が異なるし、節電という大義名分を味方につけた寒がり勢力に合わせた温度設定がなされてい […]
第三百七十四夜   いつもの最終バスに揺られながらスマート・フォンで今日のニュースをチェックしていると、普段なら停まらぬ停留所にバスが付けた。最終バスといっても田舎のことだからまだ午後十一時の手前ではあるが、田 […]
第三百四十九夜   日の高くなる前に庭の草を毟り、風呂でその汗を流し、さてそろそろ昼食の準備に取り掛かろうかと、蕎麦を茹でるべく鍋に水を張って火に掛けたときのことだ。 ワンワンと二度、犬の鳴くのが聞こえる。隣で […]
第三百二十八夜   行きつけの床屋で散髪をしていると、 「いや、参ったよ」 と店主が話し掛けてきた。住宅街にぽつんと店を構える古い床屋で、自分が学生として上京してきた頃からもう十年以上通っている。 「前に、アパ […]
第三百二十六夜   小春日和の陽気から一転、日の暮れた街の冷たい風に肩を窄めながら、冷蔵庫の中身で何が作れるか思案しつつ帰途を歩く。 駅前と私の住むアパートのある住宅街とを区切るように流れる幹線道路の信号に引っ […]
第三百十五夜   餅を焼きながら簡単な味噌汁を用意していると、寝間着姿の娘が大欠伸をしながら起きてきた。 顔を洗って着替えてこいと伝えると、餅は雑煮に入れずにきな粉をまぶして出してくれとだけ言って洗面所へ姿を消 […]
第三百十二夜   ファミリ・レストランとして最も忙しくなる夕食時が終わり、尻の長いお客が甘いものを追加してお喋りを楽しんでいるくらいで、片付けも注文聞きも暇になったタイミングで、 「あそこって、どうしてオレンジ […]
第三百六夜   週に二度の買い出しのため、海風に車体を煽られながら軽自動車を走らせる。 もう何年も通り続ける道の両側は、しかしずっと殺風景なままだ。どうせ交わる車もない交差点の赤信号に掴まって車を停め、カー・ラ […]
第三百一夜   名刺を交換し、席を勧められて腰を下ろすと、 「ひょっとして、あの○○さんの妹さんですか」 と、取引相手の男性から驚きの声が上がった。「○○」は私の姓であり、この地域に限らず珍しいものだから、同姓 […]
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