第三百七十四夜

 

いつもの最終バスに揺られながらスマート・フォンで今日のニュースをチェックしていると、普段なら停まらぬ停留所にバスが付けた。最終バスといっても田舎のことだからまだ午後十一時の手前ではあるが、田舎だからこそ辺りは暗く他の交通手段も乏しい。結果、最終バスの利用者は基本的に見知った顔がいつもの停留所で乗り降りするもので、今日のようなイレギュラーは珍しい。

降車を知らせるボタンが押された様子もなかったから、誰かが乗ってくるのだろう。なんとは無しに搭乗口のある運転席の方へ目を遣ると、
「乗らないの?」
と、運転手が歩道の方へ身を乗り出しながら尋ねる声が聞こえる。その軽い言葉遣いと猫撫で声に、どうやら相手は子供と思われる。

こんな時間に子供が出歩いているのは珍しい。塾などの習い事の帰りなら、もう一時間早いバスに乗れるように時間を組むのが普通のはずだ。

そんなことを考えているうちに空気の摩擦音が鳴り、誰も乗せぬままバスが発進する。

妙に思って窓外に目を移し歩道を確認すると、街灯に照らされて見える範囲には停留所の看板と、そこに備え付けられた無人の長椅子が照らされているばかりだ。

奇妙に思って運転手の方へ目を遣ると、斜め前に座ったご婦人が、困ったような顔でこちらを見ており、目が合うと意味有りげにこくりと頷いて、両の手で肩を擦った。

そんな夢を見た。

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