第八百六十二夜
高校受験を終えた娘が中学を卒業して三週間ほど経ち、重大なことに気がついた。娘が明らかに太っている。
中学三年生の夏にテニス部を引退して以来、筋肉の多少落ちた様子こそ見られたものの顔や腕、脚に脂肪の付いた様子はなかったのだが、入学式も間近になって届いた新しい制服を着てはしゃぎながら久し振りに髪をまとめた彼女の顔ははっきりと丸く、夏までは筋さえ浮いていた脚もかろうじて関節のくびれを確認できる程度に脂肪がついている。
部活を引退して運動量の減った後も食事量が変わらずに心配して声を掛けたことがあるのだが、勉強で頭を使う際にカロリーを消費するため大丈夫だと言うのでそのままにしていた。実際、思い返してみると、受験の頃まではそう大きな変化はなかったように思う。
となると春休み中が怪しいが、特に家でごろごろしていたというわけではない。むしろ友達とあちこち遊び回っていた。
そういうわけで、
「あんた、春休みで急に太ったんじゃない?」
と妻が尋ねると、確かに合格後からの一ヶ月半で体重が十キログラムほどは増えたという。
「まあ、高校に行き始めて部活も始まったら直ぐ痩せるでしょ」
と脇腹の脂肪を摘む娘へ、
「痩せるも太るも好きにしていいけど、服のサイズがコロコロ変わるのは勘弁してね」
と妻が返す。それに続く妻の言葉に背筋が冷えた。
「物価が上がって大変なの。あなたの服の分はお父さんのお小遣いから出してもらうから」。
そんな夢を見た。
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