第八百六十一夜
夕食を終え、弟が風呂を済ませるまでの間に居間で宿題を広げると、父が推理物のテレビ・ドラマを見始めた。彼の寝室の押し入れにはミステリ小説やテレビ・ドラマを記録したメディアが詰まった段ボール箱で一杯になっている。父唯一のの趣味らしい趣味の時間だ。
母はチーズとビール乗せた盆を父の前に置いて私の傍らに座り、宿題を覗き込みながら昔を懐かしみながらあれこれと私のミスを指摘する。
暫くして、
「その人、次に殺されちゃうんだっけ」
と物騒なことを言いながら母が父を振り返る。
「え?」
と父は母を横目で見て、そっと唇に一本立てた左手の人差し指を押し当てる。それを見た母は小さくごめんと言って口の前で手を合わせる。
母には昔から、こういうことがしばしばある。テレビでも私や弟の読んでいる漫画でも、ちらりと覗いた後「これってこれこれこういう話だっけ?」と尋ねてくる。そして、
「あ、やっぱり殺されちゃったわ、さっきの人」
と父が言うように、殆どの場合で母の言った通りの展開になる。それが再放送や古い漫画というわけでなく、半年以上も先の展開まで言い当てたりすることもざらだから質が悪い。
本人としては本当にちょっと懐かしいくらいの見覚えのあるものを家族や友人達と共有して会話を楽しもうとしているだけで区別がつかないため、避けようもないそうだ。顰蹙を買うので友人相手には話題の切り出し方を考えるようになったというが、家族が相手だとつい気が緩んでしまうらしい。
ただ、
「あれ?この問題、あんたこの前の期末試験で間違えてたやつじゃない?」
というような有り難い予言を頂戴できることも稀にあり、私はその問題を蛍光ペンでぐりぐりと丸印で囲わせてもらった。
そんな夢を見た。
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