第八十夜   深夜の自動改札を抜けて階段を昇ると、まるで人気の無いホームに出た。 普段は最終電車で帰るのだが、その場合ホームはもう少し賑やかだ。今日は少し早めに仕事を切り上げた分まだ数本の電車が残っているはずだ […]
第七十一夜   同じマンションに住む同級の友人と部活の早朝練習へ行くのに、一階のロビィで待ち合わせた。ふと玄関の外を見れば、午前六時の空は夏休み中のそれに比べて紫がかって見える。 陽の昇るのが遅くなってきたと言 […]
第七十夜 残暑の厳しい中、秋葉原の電気街で買い物をした。先日の落雷で職場のコンピュータが壊れ、部品の購入を任されたのである。 用事を済ませ一休みしようと公園へ入ると、平日の昼とはいえ妙に人気の無いのが気になる。木陰の長椅 […]
第六十五夜 合宿初日に興奮で寝付かれぬ後輩たちにせがまれて、消灯時間を過ぎた中、キャンプ用にロウソクの灯の色を真似たLEDランタンをこっそり囲んでトランプ遊びをすることになった。三年が引退して部内では最上級生になったもの […]
第六十三夜 深夜に轟音で目が覚める。思い返せば数秒前、閉じた目の向こうがちらりと明るくなった気もするので、きっと雷だろう。そう思うと同時に、ベランダのコンクリートを叩く雨音が聞こえてくる。 音で目覚めたのにも関わらず、そ […]
第六十一夜 浜で友人たちと花火を見た帰り、路面電車で家路に就き、最寄りの駅で彼らと別れて一人山道を歩く。 花火の余韻の名残惜しく、木々を抜ける夜風に吹かれながらゆっくりと歩いていると不意に、 どん、どどん と大きな音が腹 […]
第五十夜 「お、そろそろだな」。 友人の声に壁掛け時計を見やると、十時半を三秒、四秒と過ぎてゆくところだ。 「本当に?」 と尋ねると、 「後三十秒で分かるさ」 と笑って返す。 最低限の家具だけが無機的に並ぶこの部屋の主曰 […]
第五十四夜 もう今日は休もうかと考えていた深夜、台風一過で雨が止んだのを見てこれ幸いと着替え、ジョギングに出る。出不精で運動嫌いだったはずの私がひと月もしないうちに、一日走らずにいれば尻がムズムズと落ち着かなくなっている […]
第五十三夜 久方ぶりに雨が止んだので、縁の下から這い出て庭を抜けて散歩に出ようと思ったが、いつもの通りへ出る玄関先に大きな水溜りが出来ている。脚を濡らすのは御免被りたい。庭を家の裏手へ回ると轟々と音がする。背中の毛を逆立 […]
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