第六十三夜

深夜に轟音で目が覚める。思い返せば数秒前、閉じた目の向こうがちらりと明るくなった気もするので、きっと雷だろう。そう思うと同時に、ベランダのコンクリートを叩く雨音が聞こえてくる。

音で目覚めたのにも関わらず、その数秒前の光を思い出すというのは理屈が合わぬ。が、人間の記憶など案外いい加減なものだそうで、都合に合わせて前後を誤魔化したり、辻褄の合うように多少の改竄を加えたりするのはよくあることだという。時計を振り返ったときに秒針が一秒以上とまって見える現象をクロノスタシスというが、それも一例だろう。

そんなことを考えながら、だんだんと冴えてくる頭で雨音を聞いていると、再び窓の外が光る。
――一、二、三……
と、頭の中で数える。三まで数えたところで雷鳴が聞こえ、直ぐにまた稲光が差す。その光でカーテンに人形の陰が一瞬だけ映しだされ、また暗くなる。シャツでも干したまま取り込み忘れていただろうか、もしそうならこの雨の中に放って置くわけにもゆくまい。意を決して眠い身体を起こしてカーテンを引き開ける。

と、ワイシャツが一枚物干し竿へ吊るされている横に、ずぶ濡れの落ち武者らしき大男が立ってこちらを睨んでいる。

窓を開け、邪魔になる男に手振りで退いてもらってワイシャツを取り込むと、それだけで肩から先がびしょ濡れだ。床に水が落ちぬよう急いで風呂場へ駆け込み、簡単に絞って扉に干すと、換気扇を回して布団へ戻り目を瞑った。

そんな夢を見た。