第五十三夜

久方ぶりに雨が止んだので、縁の下から這い出て庭を抜けて散歩に出ようと思ったが、いつもの通りへ出る玄関先に大きな水溜りが出来ている。脚を濡らすのは御免被りたい。庭を家の裏手へ回ると轟々と音がする。背中の毛を逆立てながら覗いてみると、四角い箱があって、そこから生暖かい風が吹き出して植え込みの熊笹を揺らしている。

特に危険もなさそうなので、熊笹の茂みの中へ潜り込む。茂みに隠れて、コンクリートの塀に小さな孔が空いていて、裏のアパートへ続いているのだ。

孔をくぐると、視界の右隅に白い影が跳ねる。害意のある者であった場合に備え、髭がコンクリートに触れるか否かのところまで孔の中へ退いて、目と耳と鼻だけを出して様子を窺っていると、ミィミィと鳴く声が聞こえる。

どうやらお仲間のようだ。この長雨の間に越してきたのだろうか、裏のアパートにお仲間が住み着いているとは知らなかった。

すっかり警戒心を失い、どんな住民かと気になって孔から身を飛び出して、白い影の飛んでいった方へ駆けてゆく。ギザギザして肉厚の葉の植物の植えられた蜂の前で、三毛と白と黒の三匹が、互いにじゃれ合って跳ね回っていたが、こちらの姿を確認すると三匹揃ってそのままの姿勢で硬直する。

私のニャアと鳴いて彼らの遊びに交ぜてほしいと申し出るや否や、三毛と白とは一目散に逃げ出し、金網を潜って駐車場の車の下へ隠れてしまう。黒は申し訳なさそうにこちらを見やり、ククと小さな声で詫びる。曰く、申し訳ないが彼らは私と仲良くすることは出来ない、というのも、彼らの共通の母親が大の茶虎嫌いで、それというのも子供の頃から幾度も茶虎に酷い目に遭わされているからで、彼らには茶虎の子と遊んではならないと言って聞かせているのだという。

それだけ伝え終わると黒も金網の破れに向かってしなやかに歩き出す。

俯向くと、クリーム色と赤色の毛の縞模様になった己の腕が目に入り、自然、プと溜め息が出る。が、すぐに気を取り直す。

金網をくぐる黒の後ろ姿へ向かって、自分は塀の孔を抜けた先の家の縁の下に乾いた住処を持っていること、住人がこっそり餌をくれること、困ったことがあればいつでも相談に乗るつもりであることを努めて明るく宣言してから、尻尾をピンと立ててその場を後にした。

そんな夢を見た。