第七十一夜
同じマンションに住む同級の友人と部活の早朝練習へ行くのに、一階のロビィで待ち合わせた。ふと玄関の外を見れば、午前六時の空は夏休み中のそれに比べて紫がかって見える。
陽の昇るのが遅くなってきたと言いながらロビィを出る。暗渠に渡されたコンクリート板で出来た歩道を学校へ歩き出したとき、全身の毛穴が開いて嫌な汗が溢れ、背後で地面が揺れる。続いて木の枝の折れる音、何か重いものが地面を叩く音がしたような気がする。いや、汗と音と地面の揺れの順序は理屈の上では反対だったはずだ。
思わず振り返ると、ツツジの植え込みからワイシャツ姿の上半身がうつ伏せにコンクリートへ伸び、血溜まりを作っている。頭から放射状に伸びる髪が肩口まで掛かる長さで、恐らく女性だろう。
飛び降り自殺だ。早く大人に知らせなければとようやく事態を理解したと同時に、友人の声が耳に届く。
「うわ、朝っぱらから嫌なものを見ちまった。早く学校行こうぜ」。
いや、子供の立場で通報はともかく、誰か大人に知らせるくらいはしなくてはと食って掛かると、彼は不思議そうにこちらを見て、
「死にたいから飛び降りたんだろ?もし助かったら可愛そうじゃないか。それに、下手に生き残って、どうして死なせてくれなかったとか逆恨みでもされたらたまったもんじゃ無い」
と吐き捨て、さっさと歩き出す。
その背を見るのが苦痛で背後を振り返ると、先程より二回り広がった血溜まりが足下に迫ってきており、思わず一歩後退った。
そんな夢を見た。
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