第八百五夜
始業時間まで二十分ほど、早足で事務所へ入り、既に出勤していた同僚二人に挨拶をしながら席に荷物を置いて、そのまま奥のトイレへ向かった。食中りというほどではないが、朝から少々腹の調子が悪い。
用を足して紙が切れていることに気付く。少々無理な態勢をとって背後の棚を見れば、幸い一つ予備のロールがあり、どうにか掴んでセットし直し、事なきを得る。
置かれた予備はそれで最後だったから、予備の補充をしなければならないと、トイレを出て更に奥、倉庫件ロッカー・ルームへ向かい、扉をノックする。
うちは小さな事務所で、掃除は週毎の当番制となっているが、基本的には汚した者、汚れに気付いた者が各々対処することになっている。社長自身がそういう細かいところによく気が付いて、またマメに動くことを苦にしないタイプ故にそういうルールなのだが、皆がそのように動くわけでもない。大抵割りを食っている者もいるのだが、その中に社長が含まれているため、文句も少々言い辛い。
返事の無い倉庫へ入ると一人の同僚がいて、棚の段ボール箱を漁っていた。いるなら返事をしてくれればよいのにと言うと、別に着替えているわけでもなしにとぶっきらぼうな返事に次いで、インクの在庫は何処かと尋ねられ、こちらは早々に手に取ったトイレット・ペーパーを片手に印刷機はこっち、コピー機はこっちと案内をして部屋を出る。
トイレをノックしてロールを棚に据えて部屋に戻る。と、倉庫にいたはずの同僚がデスクに座ってスポーツ新聞を読んでいる。
――可怪しい。
トイレ、倉庫へ続く廊下は狭く、トイレの扉を開けるための幅しか無い。すれ違うのも大変で、扉を開けっ放しのまま体を伸ばしてロールを置く私の背後を通って部屋に戻ることなど不可能だ。
「あれ?さっき倉庫にいませんでした?」
と尋ねると、彼はプロレス記事から目を上げて、
「いや、今は別に着替えも用事も無いけれど」
と至って落ち着いた目で私の顔を見返した。
そんな夢を見た。
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