第百三十七夜   漫画喫茶のリクライニング・シートに背を預けながら目を閉じている。どうも、こういうところではしっかりと寝られない。うつらうつらと舟は漕ぐのだが、頭の何処かで、財布を取られはしまいかとか、明日寝過 […]
第百三十六夜   畳の部屋の中央に据えられた丸い卓袱台には簡単な朝餉が載せられ、見知らぬ一家が忙しくも楽しげに箸を動かしている。 それをガラスのあちらに歪んだ形で眼下に眺める私は、どうやら神棚に置かれているらし […]
第百三十三夜   助手席で釣り竿がクーラ・ボックスにぶつかりカタカタと音を立てるのを聞きながら車を走らせていると、前方で青い野球帽を被った老爺がこちらに手を振っているのが見えた。 朝マヅメもとうに過ぎた昼下がり […]
第百三十二夜   最寄り駅を出て繁華街を抜けると、夏の風鈴の音も、秋の虫の音もない春の夜の住宅街は途端に暗く静かになる。 車の通らぬ裏道の交差点へ差し掛かると、不意に背筋に悪寒が走る。数年前に事故が起き、それを […]
第百三十夜   入学式後のホーム・ルームを終えて教室を出て行こうとする担任を呼び止めると、 「何か?」 と言って振り返る。昨年、私の入学当初の自己紹介で「下の息子が就職して肩の荷が下りた」と言っていた割に肌も髪 […]
第百二十八夜   昼休みに馴染みの定食屋へ入ると、 「ちょっと、聞いた?」 と女将さんが噂話を持ちかけてきた。 一週間ほど前に行方不明になっていた漁師の男が遺体で発見されたという。 亡くなったのは残念だが、海の […]
第百二十六夜   吊革に体重を預け、花粉症でムズムズする鼻を我慢しながら書類に目を通していると、スーツ姿の中年男と若い女が並んで電車に乗り込んできた。 電車が動き出すと、その会話で上司と部下らしいことがわかる。 […]
第百二十五夜   いつの頃からか忘れたが、毎週金曜の深夜になると携帯電話へ見覚えの無い番号から電話が掛かってくるようになっていた。勿論、その電話に出たことは一度もない。 今日もいつもの知らない番号からの電話と確 […]
第百二十一夜   久し振りの陽気に誘われて、買い物袋を提げながら川岸の遊歩道を歩く。普段なら駅から直ぐに自宅へ向かうのだが、ちょっと脇道へ入れば川沿いに出て、しばらく下流へ向かった先でまた脇道から自宅へ戻ること […]
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