第百三十二夜   最寄り駅を出て繁華街を抜けると、夏の風鈴の音も、秋の虫の音もない春の夜の住宅街は途端に暗く静かになる。 車の通らぬ裏道の交差点へ差し掛かると、不意に背筋に悪寒が走る。数年前に事故が起き、それを […]
第百三十夜   入学式後のホーム・ルームを終えて教室を出て行こうとする担任を呼び止めると、 「何か?」 と言って振り返る。昨年、私の入学当初の自己紹介で「下の息子が就職して肩の荷が下りた」と言っていた割に肌も髪 […]
第百二十八夜   昼休みに馴染みの定食屋へ入ると、 「ちょっと、聞いた?」 と女将さんが噂話を持ちかけてきた。 一週間ほど前に行方不明になっていた漁師の男が遺体で発見されたという。 亡くなったのは残念だが、海の […]
第百二十六夜   吊革に体重を預け、花粉症でムズムズする鼻を我慢しながら書類に目を通していると、スーツ姿の中年男と若い女が並んで電車に乗り込んできた。 電車が動き出すと、その会話で上司と部下らしいことがわかる。 […]
第百二十五夜   いつの頃からか忘れたが、毎週金曜の深夜になると携帯電話へ見覚えの無い番号から電話が掛かってくるようになっていた。勿論、その電話に出たことは一度もない。 今日もいつもの知らない番号からの電話と確 […]
第百二十一夜   久し振りの陽気に誘われて、買い物袋を提げながら川岸の遊歩道を歩く。普段なら駅から直ぐに自宅へ向かうのだが、ちょっと脇道へ入れば川沿いに出て、しばらく下流へ向かった先でまた脇道から自宅へ戻ること […]
第百二十夜   送別会を終えて最終電車の無くなった部下の二人を下ろすと、運転手と二人になったタクシーの車内は急に静かになって、時折鳴る無線の他にはほとんど無音かと思われた。 ラジオかテレビかでもという運転手の提 […]
第百十九夜   向こう一週間の食料の詰まった買い物袋を両手に提げ、近所の公園の横の歩道を歩いている。公園との境は背の低いツツジの生け垣になっており、まだ寒々と茶色い枝や幹を晒している。 その植え込み向こうの芝生 […]
第百十八夜   白地に金の装飾が施された平たい化粧箱を抱えて居間に戻ると、妻はまだ台所の床にしゃがみ込んで、割れた皿の破片を丁寧に拾っては半透明のビニル袋へと移していた。 大きな破片だけ片付けた後は掃除機で吸っ […]
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