第百二十五夜

 

いつの頃からか忘れたが、毎週金曜の深夜になると携帯電話へ見覚えの無い番号から電話が掛かってくるようになっていた。勿論、その電話に出たことは一度もない。

今日もいつもの知らない番号からの電話と確認し、無視をしようとしたところで手が滑り、通話を受けるボタンに手が触れてしまった。

慌てて通話を切ろうとすると、スピーカから私の下の名を呼ぶ声がする。不審に思って、
「どちら様ですか」
と尋ねると、相手は私の恋人だと言って名乗る。確かに名は一致するが、今の私には恋人など居ないので、
「間違い電話ですよ。きっと、この電話番号の前の持ち主のことでしょう。名前が一緒なんて偶然ですね」
と返す。

電話の相手はそんなはずはない、声もよく似ている云々と食い下がるが、電話では実際の声の一部をしか伝えないから声の区別が付き難いのはよくあることだ。

半年ほど前に恋人と急に連絡が取れなくなった、毎週末の夜に電話で話をしていたから電話を掛け続けているのだという。言われてみれば、迷惑電話が掛かってくるようになったのはそのくらいの時期だったか。
「それなら、その時期にその人が解約して空いた番号を、たまたま同じ名前の私が使うことになったんでしょう」。

兎に角、毎週深夜に間違い電話を掛けられて迷惑だから、もう電話をしないようにやや強い調子で言って、一方的に電話を切った。

死んだ恋人の声によく似ていた。

そんな夢を見た。

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