第百六十六夜   日照り続きで水嵩の減った川の流れは緩く、川面はいつもに増して滑らかに入道雲を映している。 その空に円い波紋が音もなく生まれ、川の流れに間延びして広がる。 アメンボだ。 群れとはぐれでもしたか、 […]
第百六十五夜   台風の接近で電車が止まったため、定時を回ると社内で小規模な宴会が開かれることになった。 多くが電車通勤であったし、自転車や自動車の連中からも皆が社に泊まるならと言って居残ると言い出す者があって […]
第百六十四夜   社用車を走らせて夏の夕暮れの住宅街からの帰り道、もう午後も七時を回ったというのに空は朱に染まって、通りもまだ明るい。 薄暮。黄昏時ともいう。 こういう中を運転していると、教習所で脅しのように言 […]
第百六十二夜   濡れタオルを頭に載せながら昼食休憩を炎天下の公園でとった後、木陰のベンチに腰掛けたまま噴水を眺めながら呆けている。南海上から押し寄せた水蒸気は九州から岐阜の辺りにまで豪雨をもたらして力尽き、関 […]
第百五十八夜   アパートへ帰って扉を開けると、上がりかまちの上に前足を揃えた虎猫がこちらを見上げて小さく鳴く。いつものお出迎えに対して私もいつも通り帰宅の挨拶をしながら灯を点け、パンプスを脱ぐ。 いつも通りに […]
第百五十六夜   沢の脇の山道は、梅雨に入り色を濃くした木々の葉に覆われて、低い雲の下に延々と薄暗く濡れてくねくねと登っている。 季節毎に表情を変えるその道を、私は子供の時分からほとんど毎日通って学校へ行き帰り […]
第百五十四夜    パァン 梅雨空に似合わぬ乾いた破裂音が耳をしたたか貫いたのは、しとしとと雨の降り続く夕暮れの図書館でのことだった。 一体何が起きたのか。 貧乏学生の鞄を盗むものも居まいと、取り急ぎ貴重品だけ […]
第百五十一夜   午前中の外回りに区切りが付いて、どこかで昼食をと思いながら社用車に乗り込む。 曲がりくねった道を抜けて郊外の幹線道路へ出て、白いセダンの後に付いて走る。この手の道沿いには広い駐車場を備えたファ […]
第百五十一夜   日課のジョギングへ出ようと寝間着からジャージに着替えて家を出る。毎朝同じ時刻に家を出るのだが、夏至も近くなって随分と明るくなったのがわかる。気温も高く走っていて負担に感じ始めたので、もう少し時 […]
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