第百七十一夜   母に頼まれた街での買い物を終えて実家へ戻る田舎道を走っていると、盆も終わりとなって幾らか涼しくなった風が窓から入って髪を揺らす。都会と違いすれ違う車も少なく、空気も綺麗だ。 走っているうちに、 […]
第百六十九夜   社会人二年目、学生時代の友人達ともやや疎遠になったが、かといって新たに友人関係が構築されるわけでもない。折からの猛暑に郷里の夏の暑さはもう幾らかマシだったかと懐かしみ、冷房代の浮く分で学生時代 […]
第百六十八夜   木枝に羽根を休めながら、辺りのクヌギの幹に集る甲虫達を品定めしていると、里の方からクマザサの揺れる音がする。イノシシでも来たかと振り向いてみれば人間の若い女である。里山の森へ僅かに漏れる月明か […]
第百六十六夜   日照り続きで水嵩の減った川の流れは緩く、川面はいつもに増して滑らかに入道雲を映している。 その空に円い波紋が音もなく生まれ、川の流れに間延びして広がる。 アメンボだ。 群れとはぐれでもしたか、 […]
第百六十五夜   台風の接近で電車が止まったため、定時を回ると社内で小規模な宴会が開かれることになった。 多くが電車通勤であったし、自転車や自動車の連中からも皆が社に泊まるならと言って居残ると言い出す者があって […]
第百六十四夜   社用車を走らせて夏の夕暮れの住宅街からの帰り道、もう午後も七時を回ったというのに空は朱に染まって、通りもまだ明るい。 薄暮。黄昏時ともいう。 こういう中を運転していると、教習所で脅しのように言 […]
第百六十二夜   濡れタオルを頭に載せながら昼食休憩を炎天下の公園でとった後、木陰のベンチに腰掛けたまま噴水を眺めながら呆けている。南海上から押し寄せた水蒸気は九州から岐阜の辺りにまで豪雨をもたらして力尽き、関 […]
第百五十八夜   アパートへ帰って扉を開けると、上がりかまちの上に前足を揃えた虎猫がこちらを見上げて小さく鳴く。いつものお出迎えに対して私もいつも通り帰宅の挨拶をしながら灯を点け、パンプスを脱ぐ。 いつも通りに […]
第百五十六夜   沢の脇の山道は、梅雨に入り色を濃くした木々の葉に覆われて、低い雲の下に延々と薄暗く濡れてくねくねと登っている。 季節毎に表情を変えるその道を、私は子供の時分からほとんど毎日通って学校へ行き帰り […]
最近の投稿
アーカイブ