第百六十九夜

 

社会人二年目、学生時代の友人達ともやや疎遠になったが、かといって新たに友人関係が構築されるわけでもない。折からの猛暑に郷里の夏の暑さはもう幾らかマシだったかと懐かしみ、冷房代の浮く分で学生時代には帰らなかった実家へ戻ろうと決心した。久々に墓の掃除もしなければ、罰も当たろう。

新幹線の車中、
「街でゴーヤとパプリカを買ってこい」
と父から電子メールを受け取って、暫く遭わぬうちに食事の子に見が変わったかと驚いた。

鈍行へ乗り換える際に一度駅を出て大きな食料品店を探し、言われた通りのものを買うと、再び車上の人となった。

高校生の頃に見飽きた風景を窓外に眺めているうち、自宅の最寄駅へ着く。電車を降りると、ターミナル駅では感じなかった田舎の匂いが鼻に懐かしい。

自宅へ着くと、久しぶりに会った娘への挨拶もそこそこに、父は野菜の入った袋を受け取り縁側へ坐り込んで背中を丸める。

何をしているのかと後ろから尋ねると、短く切った割り箸をパプリカに刺し込んで見せ、
「ほら、精霊馬だよ」
と笑う。

それならば普通は茄子や胡瓜ではないのかと尋ねると、
「去年の親父の初盆でそれをやっただろう?そうしたら、夢枕に立たれてな。派手好きな人だから、もっと格好の好いのに乗せろって」
と苦笑いをする。その割に、脚の長さを揃えたり開き具合の見栄えを整えたりと、細かな作業に没頭しているのだった。

そんな夢を見た。

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