第百七十一夜

 

母に頼まれた街での買い物を終えて実家へ戻る田舎道を走っていると、盆も終わりとなって幾らか涼しくなった風が窓から入って髪を揺らす。都会と違いすれ違う車も少なく、空気も綺麗だ。

走っているうちに、右前方に大きな楽器のケースを背負ったセーラー服の少女がバスの停留所の看板の前へぽつんと一人立っているのが見えた。まだ随分先に小さく見えるその姿に気が付いたのはその詩情のせいだろう。自分ではとても、あんな風に絵にならない。

吹奏楽部の練習か、或いは大会か、ともかく、昼から街で部活動なのだろう。社会人としては盆くらい休めばよかろうと思いもするが、盆に大会や行事のあることも多いし、吹奏楽部は自身の大会だけでなく、他の運動部の応援に駆り出されることもあるので仕方ないのだろう。

そんなことを考えるうち、バスが角を曲がって現れ、バス停を通り過ぎ、私の車とすれ違う。バス停には停まらなかった。実家を離れて数年になるが、過疎化の進むこの田舎で新しい路線が出来たなどとは聞いたこともない。バスの乗車拒否など、もっと聞いたことがない。

バスが視界を横切って、再び姿を現した停留所にはしかし、少女はおろか誰の姿も無い。

ただ、時刻表の看板の足下に、花束の供えられているだけだった。

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