第百六十二夜

 

濡れタオルを頭に載せながら昼食休憩を炎天下の公園でとった後、木陰のベンチに腰掛けたまま噴水を眺めながら呆けている。南海上から押し寄せた水蒸気は九州から岐阜の辺りにまで豪雨をもたらして力尽き、関東のコンクリートとアスファルトとは短い空梅雨が開けてからずっと熱を溜め込んでいる。

魔法瓶に入れたスポーツ・ドリンクがすっかり減って、次の客との約束の時間が近付いてきた。

荷物をまとめていると、噴水の立てる白い飛沫の下に白い物が動くのが気になった。よく見れば一匹の白猫だった。猫といえば濡れるのを嫌うものと思っていたが、あまり暑いので涼を求めてやってきたのだろうか、噴水を囲むブロックの作る僅かな日陰の中を歩く。気に入った場所が見つかったのか脚を投げ出して腹這いになり、一つ大きく欠伸をして目を閉じる。

耳の先端に切れ目があり、去勢された地域猫であることがわかる。野良の割に毛並みが良いのは、この公園での餌遣りが容認されているからか。

余り気持ちよさそうに目を細めているので、客先へ向かう前にその顔の写真でも撮ってやろうと思い立ってベンチから腰を上げ、脅かさないように忍び足で猫に近付く。やはり人に慣れているのか、あちらも特に動じる様子はない。

一メートル半ほどのところまで近付き、スマート・フォンを持った手をできる限り伸ばして写真を撮る。猫も撮られ慣れているのだろう、カシャという音に切れ目の入った耳をぴくりとさせただけで、ゆっくりと腹を上下させながら地面にべったりと寝そべったままだ。

再び足音を忍ばせて猫から離れ、地下鉄の駅へ向かう。

自動改札を通りホームに立って電車を待つ間、先程の写真の出来栄えを確かめようと胸ポケットからスマート・フォンを取り出して見て驚いた。

写真には噴水脇の石畳が写っているばかりで、腹這いになって寝る白猫の姿はどこにもなかった。
 
そんな夢を見た。