第百五十八夜

 

アパートへ帰って扉を開けると、上がりかまちの上に前足を揃えた虎猫がこちらを見上げて小さく鳴く。いつものお出迎えに対して私もいつも通り帰宅の挨拶をしながら灯を点け、パンプスを脱ぐ。

いつも通りに彼の先導に従って部屋に向かおうとして、奥から人の話し声がする。少々驚いたものの、まだ電灯を点けていない部屋の一角がぼんやりと明るく明滅していることから直ぐにテレビの音声と分かって安堵する。

と同時に、今朝の出掛けに自分がテレビを消したかどうかを振り返ってみる。意図的に点けておいた記憶はない。が、うっかり消し忘れたのなら記憶があるはずもない。

誰かが侵入したのか、それとも何か不可思議な現象か。少々気味が悪いが先刻から足元で晩御飯をせがんでいる虎猫に餌をやらねばならないので、そっと様子を伺いながら中に入る。

テレビが点いていること以外は、特に変わった様子もない。テレビを消そうと、薄いテレビの枠の右上部にある主電源へ指を伸ばすと、そこに細い毛が挟まっている。
――なるほど、猫の毛か。

留守中、テレビの上に虎猫が乗った拍子に主電源のスイッチを踏んで押したのだろう。

安心しつつ毛を摘むと、細くしなやかな黒い猫の毛が数本、親指と人差指の間に収まった。

そんな夢を見た。

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

最近の投稿
アーカイブ