第百三十六夜

 

畳の部屋の中央に据えられた丸い卓袱台には簡単な朝餉が載せられ、見知らぬ一家が忙しくも楽しげに箸を動かしている。

それをガラスのあちらに歪んだ形で眼下に眺める私は、どうやら神棚に置かれているらしい。家族の食事に先立って水と卵とが供えられたが、ガラスのあちらにあるのでは牙も舌も出ない。仕方がないのでじっとと蜷局を巻いたまま、眼下の狭い部屋を眺め続ける。私を閉じ込めているガラス瓶の中には泡盛が満たされているようで、酒に事欠かないのがせめてもの救いである。

もうどれくらいこうしているだろう。気が付いたときにはもうこの神棚に据えられていて、酔った頭で千を数えた頃にはもう夜を数えるのも面倒になって久しい。

いつか家主と思しき初老の男がこの瓶の酒に手を出したら、思い切り噛み付いてやろうかと思った時期もあった。ところがこれが悋気のためか、送り主との思い出のためか、一向に手を出す気配がないために、こちらも流石に待ちくたびれてしまった。

毎朝律儀に水と卵とを供えるところを見ると、どうも私を神と祀ろうと試みているのかもしれないが、そこらの藪で捕まってハラワタを抜かれた一匹のハブたる私にそんな力のあろうはずもない。おまけにガラスの向こうに手が出せないので、水も卵も供えているようで何の供えにもなっていない。

幸い、食うには困らない。この神棚には家主がおらず、そこを住処にしようとやってくる連中が泡盛に釣られて瓶の中へやってくるから、これを丸呑みしてしまえばよいのである。牙と毒腺の抜かれなかったのは幸いであった。

眼下では片付けが始まり、初老の男が神の居ない神棚へ恭しく頭を垂れてから水と卵とを下げ、また頭を垂れた。

そんな夢を見た。