第八百四十五夜

 
 一週間ぶりに出社してきた同僚は、僅かな間に少々頬がコケてはいるものの、退院直後の割には随分と血色が良かった。
 口々に大丈夫かと尋ねる同僚達への返事は、入院して退院してきたのだから以前よりはマシな筈だという軽口で、少なくとも冗談を言える程度の精神的余裕も伺える。
 昼休みに弁当組で集まり一週間ぶりの集結を祝って湯呑みで乾杯を交わすと、どうしても入院にまつわる話題になる。検査の後、腹腔鏡で腫瘍を切ってすぐに退院し、土日を挟んで今日月曜日に会社に復帰と、あらゆる意味で負担が軽く済んだと彼女は笑う。
 腫瘍がごく早期に見つかったのが良かったのだと医者に説明を受けたと彼女が言うと、何がきっかけでそんなに早期で病気が発覚したのかと周囲が問う。確かに、健康診断の時期でもなし、何か痛みでも出たのだろうか。重病を早期に発見する方法があるなら是非とも知りたいというのは、それなりの年齢なら皆同様だろう。
 すると彼女は困ったような顔をして、
「馬鹿にしないでほしいんだけど」
と前置きして、
「お正月にね、旦那の実家の近くの神社に初詣に行ったの」
と言う。そこは縁切り神社として有名だそうで、
「最近ちょっと太り気味だったから、『お腹のお肉と縁が切れますように』って、半分冗談でお願いしたの。先週になって物凄いお腹が痛くなって検査してもらって見つかったんだけど……」、
腫瘍の成長があまりに急なのが要因かもしれないが、この程度の大きさの腫瘍で自覚症状が出るというのは大変に珍しいと、医者も首を捻ったのだそうだ。
 そんな夢を見た。

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