第八百四十七夜
学年末試験を終えて早々に帰宅し、風呂で花粉を落としさっぱりした気分で昼食をとっていると、帰宅した祖母がお菓子の箱を持ってきて居間のテーブルに置いた。近所の学校で半ばボランティアで花道を教えているのだが、今日が今年度最後だったそうで、子供達からの御礼の品だそうだ。
鼻にちり紙を当てながら受取り、せめて上着は脱いでから居間に来て欲しかったと伝えると、彼女はうっかりしていたと謝罪して、そそくさと自室へ着替えに行く。
ややあって彼女が戻ってくる頃には食事を終え、食器を重ねて席を立ったところだった。彼女に昼食はと尋ねると、給食をご馳走になってきたそうで、食器を運ぶ私と入れ違いに急須と茶碗を持ってお茶を淹れる。
食器を洗う私に、彼女はお茶を啜りながら、
「今日ね、学校で不思議な話を聞いちゃったの」
とカウンタ越しに私の顔を見る。
曰く、給食をいただいて帰り際、初等部の教室の並ぶ廊下に先生が立っていて、難しい顔をしてその壁を眺めていた。昇降口へ向かって歩くと彼に近付くことになる。そのまま近付いてこんにちはと声を掛けると、向こうも気が付いてこちらに挨拶を返す。彼の見つめていた壁にはクレヨンで描かれた絵がずらりと貼り出されていた。どうなさったんですかと尋ねると、彼は目の前の一枚を掌で示し、
「冬休みの宿題の絵を張り出しているんですが……」、
その一枚には小さな家から赤い炎と真っ黒な煙とが描かれ、燃える家の外に笑顔の家族が並んで笑っている。
「この子の家が、昨日火事になりまして。ご家族は皆さん無事だったそうなのですが、この子は予知夢でも見たのでしょうかね。ちょっと、何と言うかインパクトのある絵でしょう?」
終業式も近いこと、皆剥がして児童達に返却した方がよいかと思い悩んでいらしたのだそうだ。
そんな夢を見た。
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