第百二十八夜

 

昼休みに馴染みの定食屋へ入ると、
「ちょっと、聞いた?」
と女将さんが噂話を持ちかけてきた。

一週間ほど前に行方不明になっていた漁師の男が遺体で発見されたという。

亡くなったのは残念だが、海の男が行方知れずになって遺体が見つかったのはせめてもの救いだろうか。そう感想を述べると、女将さんは大袈裟に眉をひそめて、
「それがね、そのご遺体が妙なんですって」
と声を潜める。

料理が出来るまでに間に合わせたいのか、彼女は早口で事情を語る。

まず遺体の見つかったのは、ちょっと沖の島というより一抱えほどの岩の上だったという。これは舟に何かあって、どうにか泳ぎ着いたものと考えればそう不思議でもない。

ところがその遺体が妙だった。

まず、衣服を全く身に付けていなかったそうだ。この季節だから、濡れた服に体温を奪われるのを嫌ったのかもしれないが、かと言って全裸で凌げるほど夜は暖かくもない。

次に、腹が異様に膨れていたという。岩に登る前に波を飲んだものかと思われたが、警察の解剖の結果、胃から大量の魚や貝が未消化のまま見つかった。貝だけなら岩で取れたかもしれないが、魚を素手て捕らえたというのだろうか。また、それらが未消化ということは、それらを捕らえるほどの体力があったにも関わらず、食後すぐになくなったということになる。
「漁師の間じゃね、海の女神さんに気に入られたんだろうって言ってるよ」
と言いながら女将さんが料理を卓に並べる。
「なら、浦島太郎みたいにちゃんと浜まで返してほしかったろうになぁ」
と言うと、彼女はまた険しい顔をして頷く。
「いただきます」
とはいったものの、目の前に並べられた刺し身に箸を伸ばすのは気が引けた。

そんな夢を見た。