第七十夜

残暑の厳しい中、秋葉原の電気街で買い物をした。先日の落雷で職場のコンピュータが壊れ、部品の購入を任されたのである。

用事を済ませ一休みしようと公園へ入ると、平日の昼とはいえ妙に人気の無いのが気になる。木陰の長椅子を見付けて荷物を下ろし、鞄からペット・ボトルの茶を取り出して一口呑む。

何とは無しに通りを眺めていると、一匹の三毛猫が軽やかな足取りで入り口から入ってきて、茂みの方へ向かって行く。

口に何か、白と黒の布を加えて引き摺っている。目を凝らすとどうやら、メイドが頭に付けるヘッド・ドレスらしい。黒地に白いレースのフリルがあしらわれた、ゴシック・ロリータ風のものだ。どこか近所のメイド喫茶からでも拝借してきたのだろう。が、猫がヘッド・ドレスなど何に使うのだろうか。

これぞ泥棒猫などと下らぬことを考えながら眺めていると、三毛がこちらを振り向き、目と瞳孔とをまん丸に見開く。どうやら見られていたのに気付いていなかったらしい。大慌てで植え込みの中へ駆け込んでそのまま見えなくなる。何か申し訳ないような気持ちになって荷物をまとめ、公園を後にすることにした。

帰社をして同僚に珍しいものを見たと話すと、なかなか愛らしい取り合わせだ、写真を撮ってくれればよかったのにとなかなかに盛り上がる。そこで、
「なんでまたヘッド・ドレスなんて咥えてたんだろうね」
と先の疑問を口にすると、タヌキのような顔と腹をした上司が真顔で言う。
「そりゃ、踊るとき、手拭い代わりに被るんだろうさ。今の秋葉原じゃ、手拭いなんて貴重品だろう」。
 そんな夢を見た。

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