第八十八夜   稲刈りを終えても、冬支度に追われる村の秋は忙しい。それでも「雨の日くらいは相手をしろ」と庄屋様に呼ばれ、濡れ縁に腰掛けて碁を打っていた。なにしろ立派な屋敷で軒が深い作りなものだから、少々の秋湿り […]
第七十五夜   旅先の山中に人気のない神社を見付け参拝を済ませると、奥の蔵の石段の陽溜まりに腹を出して眠る一匹の三毛猫がいるのに気が付いた。 リュック・サックからカメラを取り出してその前にしゃがみ込むと、彼女は […]
第七十二夜   大学の夏休みは長過ぎる。そんな時間を持て余した学生達が集まる大学のサークル室で、時折雑談を交わしながら、あるものは勉強をし、またあるものは代々伝えられてきた漫画を読み、ゲームに興じている。 盆に […]
第七十夜 残暑の厳しい中、秋葉原の電気街で買い物をした。先日の落雷で職場のコンピュータが壊れ、部品の購入を任されたのである。 用事を済ませ一休みしようと公園へ入ると、平日の昼とはいえ妙に人気の無いのが気になる。木陰の長椅 […]
第六十九夜 事務所で机に向かいカタカタとキィ・ボードを打っていると、「こんにちはー」と語尾の間延びした大声とともに長い茶髪の女性が入ってくる。 仕事上の知り合いで、まだ若いのにこれでもかと派手な服装と化粧をしていることも […]
第六十三夜 深夜に轟音で目が覚める。思い返せば数秒前、閉じた目の向こうがちらりと明るくなった気もするので、きっと雷だろう。そう思うと同時に、ベランダのコンクリートを叩く雨音が聞こえてくる。 音で目覚めたのにも関わらず、そ […]
第六十一夜 浜で友人たちと花火を見た帰り、路面電車で家路に就き、最寄りの駅で彼らと別れて一人山道を歩く。 花火の余韻の名残惜しく、木々を抜ける夜風に吹かれながらゆっくりと歩いていると不意に、 どん、どどん と大きな音が腹 […]
第五十夜 「お、そろそろだな」。 友人の声に壁掛け時計を見やると、十時半を三秒、四秒と過ぎてゆくところだ。 「本当に?」 と尋ねると、 「後三十秒で分かるさ」 と笑って返す。 最低限の家具だけが無機的に並ぶこの部屋の主曰 […]
第五十五夜 湯上がりの火照った肌を浴衣の生地が撫で、肌と生地との間に風が通るのが心地よく、ついつい大股で歩いて部屋へ戻ると、仲居がちょうど布団を敷き終えたところだった。 失礼しましたといって頭を下げる彼女にいい湯だったと […]
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