第百六十八夜   木枝に羽根を休めながら、辺りのクヌギの幹に集る甲虫達を品定めしていると、里の方からクマザサの揺れる音がする。イノシシでも来たかと振り向いてみれば人間の若い女である。里山の森へ僅かに漏れる月明か […]
第百六十六夜   日照り続きで水嵩の減った川の流れは緩く、川面はいつもに増して滑らかに入道雲を映している。 その空に円い波紋が音もなく生まれ、川の流れに間延びして広がる。 アメンボだ。 群れとはぐれでもしたか、 […]
第百六十夜   朝食の片付けをしていると電話が鳴った。急ぎ手を拭いて番号表示を見れば娘の緊急連絡網の上流で、受話器を取る。朝の挨拶を交わした後に相手の告げた用件は、 「数日前の不審者情報で流れた犯人が逮捕された […]
第百五十一夜   日課のジョギングへ出ようと寝間着からジャージに着替えて家を出る。毎朝同じ時刻に家を出るのだが、夏至も近くなって随分と明るくなったのがわかる。気温も高く走っていて負担に感じ始めたので、もう少し時 […]
第百四十八夜   公園の水飲み場に溜まった水で行水をしていると、フィヨフィヨフィヨと聞き慣れぬ声がする。 嘴で翼の羽根を梳かしながらチラと見ると、ここらではあまり見ない、茶色い斑の鳥が降りてきた。冠のような飾り […]
第百四十一夜   始めたばかりの写真の練習台に野鳥でもと思い立ち、近所の水場へ出掛けた。池に着いて双眼鏡を手にあちらこちらを見回していると、カラスほどの大きさの見慣れぬ鳥が岸辺を歩いているのに出会った。 頭から […]
第百三十二夜   最寄り駅を出て繁華街を抜けると、夏の風鈴の音も、秋の虫の音もない春の夜の住宅街は途端に暗く静かになる。 車の通らぬ裏道の交差点へ差し掛かると、不意に背筋に悪寒が走る。数年前に事故が起き、それを […]
第百三十一夜   たまの休日に散歩へ出て、洒落た喫茶店を見付けた。北欧風の無機質な店内へ入ると、ワイシャツにスラックス姿の女性が接客に現れる。一言二言のやり取りの後、窓際の席に着いて荷物を下ろし、ミルフィーユと […]
第百二十九夜   コンビニエンス・ストアで晩酌のツマミを買った帰り、風もなく温かい夜で気分がよく、夜桜でも眺めようかと近所の公園へ足を伸ばした。 地元ではちょっとした大きさの公園だが、花見客が集まるほど桜が植わ […]
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