第百一夜   何やら嗅ぎ慣れぬ甘い香りに意識が覚醒した。目を開くより先に、糊の利いたシーツが地肌に触れる感触でそこがホテルの一室であることを思い出す。 目を開けて上体を起こすと、掛け布団がずれて横に眠る女の肩口 […]
第百六夜   正月呆けの抜けぬ身体にスーツを纏って家を出ると、早朝の凛と硬い空気に思わず首が竦む。新暦で年が明けたと言っても、春はまだまだ先である。 コートの襟に頬を埋めながら階段を下り舗装路に出る。寒々しく枯 […]
第九十九夜   初めてデジタル・カメラを買ったという友人から、「新品なのに壊れてるようだ」と連絡が来て、渋々引き受けることにした。 喫茶店で待ち合わせると、気安い仲でこういう物に詳しそうかつ暇そうなのが私だった […]
第九十八夜   秋雨の冷たく降るとはいえ、たまの休日の勿体なさに散歩を兼ねて買い物へ出たが、夕刻の帰途もなお傘を打つ雨の勢いは衰えず、コートの襟に首をすくめながら、点々と街灯の灯る橋を渡る。渡った橋を振り返りビ […]
第九十七夜   授業の終わった姉に手を引かれて家に帰ると、普段ならこんなに早く帰宅しているはずのない母が落ち着かぬ様子で箪笥を漁り、旅行鞄へ荷物を詰めていた。 喪服や数珠を鞄に詰めながら姉に説明する母曰く、親戚 […]
第九十六夜   低く垂れ込めた雲に薄暗い通学路を、傘を差して歩く。大振りなゴム製の雨靴の中で足が前後左右にずれて歩き難い。頻繁に履くものでもないのにどうせ直ぐに成長して履けなくなるからと、梅雨の時分に大きめのも […]
第九十五夜   嫌な予感と共に目を覚まし、慌てて枕元を探ってスマート・フォンを手に取って確かめると、いつも目覚ましを鳴らしている時刻を優に三十分は回っている。 慌てて飛び起きて寝間着代わりのTシャツを脱ぎながら […]
第九十一夜   ごつりと頭を打って気が付くと、黒い床の上へ頭を打ったらしい。辺り一面にぎっしりとひしめく仲間達も皆同じようで、気の付いたものは辺りをぐるぐる見回して首をかしげている。 ここは何処だ。 回りの仲間 […]
第八十九夜   パチリ、またパチリと硬い音が繰り返されるのが気になって薄目を開ける。私を起こさぬよう気を遣っているのか照明は常夜灯のみで薄暗い中、傍らのソファで女が爪を切っている。私からはまともに色も見えぬ暗さ […]
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