第百二十九夜

 

コンビニエンス・ストアで晩酌のツマミを買った帰り、風もなく温かい夜で気分がよく、夜桜でも眺めようかと近所の公園へ足を伸ばした。

地元ではちょっとした大きさの公園だが、花見客が集まるほど桜が植わっているわけではない。他の木々に混じって幾本かが街灯に照らされているに過ぎないが、そのために酒盛りをするような人がいないので却って落ち着いて眺められるというものだ。

桜の下を通って人気のない公園に入り、少し離れたところからそれを眺める。

手に提げた袋の中の酒に手を出そうかと迷いながらしばし夜桜を独り占めしていると、美しく咲く桜の下には死体が埋まっているという話を思い出した。子供の頃に祖母から聞いたか、或いはテレビの怪談特集か何かで知ったか、定かでない。死体の窒素分を栄養にしてよく花を付けるのだとか、そういう理屈だったように記憶している。

こういう、ちょっとした科学的説明が出来るような類の迷信は、昔から経験則としてそういう知識があったのかと思うとなかなか面白い。雷を稲妻と呼ぶのは、夏に雷が多いと稲がよく実るからで、それは雷の放電で窒素酸化物が作られて肥料として働くからだという話を聞いたときは、真偽はともかく感心したものだ。

そう言えば夜に口笛を吹くと蛇が出るという話も聞くが、同じ条件で泥棒が出るとか人攫いが出るとかいった話もある。要は夜に口笛を吹いて耳障りな音を立てるなという戒めであって、特に何かの根拠のあるものではないのだろう。
――この公園の真ん中ならば多少の物音も近所迷惑ということはないのではないか。

そんなことを思って、特に意味もなく、小さく口笛を吹いてみる。と、桜の後ろの茂みが小さく揺れた。

何事かと驚き目を遣ると、一匹の三毛猫が出てきて、こちらへ歩いてくる。

コンビニのビニル袋を提げていたからか、口笛かは分からないが、きっと誰か夜中にこうして餌をやっているのだろう。脛にまとわりついて尾を絡める猫の額を撫でながら、餌は持っていないのだと謝りながら公園を後にした。

そんな夢を見た。