第百四十八夜

 

公園の水飲み場に溜まった水で行水をしていると、フィヨフィヨフィヨと聞き慣れぬ声がする。

嘴で翼の羽根を梳かしながらチラと見ると、ここらではあまり見ない、茶色い斑の鳥が降りてきた。冠のような飾り羽がその頭の上に撥ねている。若い雄の雲雀だ。
「貴方が関東一賢いと名高い烏さんですか?」
と尋ねる彼に、
「私をそう呼ぶ者がいることは知っている。が、それが本当かどうかは知らん。その程度の智恵ってことだ」
と、羽根を繕いながら答えてやる。
「ああ、それなら間違いない。水浴びの最中に失礼とは思いましたが、一刻を争う相談がございまして……」。

雲雀は腰を低くして、脚に掴んでいた物を並べる。鎌倉、湘南辺りの地ビールの瓶の王冠だ。
「私、江ノ島の雲雀でして。つまらないものですが、お近付きの印にお収めいただければと存じまして」
「いやいや、これはなかなか。私の智恵で役に立てるかどうか、はるばるやってきて無駄羽にならんといいのだが……」。

そんなやり取りの後、雲雀は滔々とその身の上を語り始める。

そろそろ一人前、良い相手を見つけて子育てをしようと思ったら、どうも自分は歌が下手らしい。周りを真似て鳴いてみても、メスがちっとも振り向いてくれない。雲雀の長老に聞いてみても、下手なのは確かだが、上達するには上手い者の真似をするしか無いと言う。

しかしそれはこれまでやってきたことだ。何か特別なコツでもないかと尋ねたところ、東京に知恵者として有名な烏がいるからと教えられて、土産物持参でやってきた。

私は烏だから、雲雀の歌のことはよくわからぬ。が、
「雲雀の歌なら雲雀に聞くのがよかろう。各務原に達鳥がいると聞くから、そこへ行くとよい」
と、心当たりを教えてやる。
「カガミハラですか。どの辺です?」
「中山道の鵜沼宿の辺りだ。江ノ島の者なら東海道は知っているだろう。名古屋の北と言えばわかるかな?」
「はあ、随分遠いもんですね。燕さんならどのくらいですか?」
「そうさな、日の出から真っ直ぐ飛ん、火の沈む前には着くか」
「うーん、私じゃ三日かかりますかね」
と、雲雀は項垂れる。何か急ぐ理由でもあるのか尋ねると、
「もう暫くしたら、恋の季節は終わりなんです。みんな卵を産んで、子育ての時期に入っちまいますからね。また来年ってなる前になんとかしたいんですわ」。

それなら良い物がある。ちょっと待っているようにと言いながら、彼の土産の王冠を脚と嘴に持って、巣へ飛び帰る。コレクションを愛でるのは、若い雲雀の旅立ちを見届けてからでよいだろう。置いてあった目当てのものを咥えて彼の元へ戻ると、
「なんですかい、その板切れは?」
と、私の咥えた銀の板を不思議そうに見る。
「このペンギンのカードはな、電車に乗るのに使うんだ。これを咥えて改札を通れば追い払われないで済む」
「電車ですか」
「そう、新幹線って言ってな、燕が全力で飛ぶより尚速い速度で走り続けられるんだ。これなら名古屋まで二時間で行ける」。

それを聞いた彼はパッと頭の飾り羽を広げて、
「そりゃすごい!」
とピヨピヨ鳴く。

王冠の礼にそれはやるが、帰りも新幹線を使いたけりゃそれまでは無くさないようにと念を押し、近くの駅まで送ってやると、きっと今年の繁殖期に間に合って、立派な歌い方を習得してくると、彼は元気に約束してくれた。

そんな夢を見た。

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