第百六十夜
朝食の片付けをしていると電話が鳴った。急ぎ手を拭いて番号表示を見れば娘の緊急連絡網の上流で、受話器を取る。朝の挨拶を交わした後に相手の告げた用件は、
「数日前の不審者情報で流れた犯人が逮捕された」
というものだった。
先週末に女性が通り魔に背中を刺されて逮捕されておらず、近所の小中学校周辺に刃物を持った男が目撃されているというので、週明けから登下校に保護者が付き添うよう警戒していたのだが、その犯人が捕まったのだという。
どうして捕まったのか、まさか新たに誰かが襲われでもしたのがきっかけではと気になって尋ねると、
「それが、昨日の夜中に放火があったそうで」
と言う。
曰く、昨日住宅街のあるお宅でのこと。日差しの弱まった夕方に伸び放題の庭木を剪定したのだそうだ。今日の燃やすゴミの日に合わせて枝を切り、ビニルテープで束ねて庭の片隅に積み、一晩置いて今朝出すつもりだった。
深夜、不届き者がそれを見付けて火を点けた。放火犯というのは自分の点けた火が大きくなる様や、それを多くの人が見物に来る様を見て喜ぶものだという。一度そこから離れた後、さも偶然に通り掛かったという風に戻ってきた。
ところが、この庭木に夾竹桃が含まれていた。夾竹桃は葉も花も枝も、隅々まで強い毒を持っていて、口にすると僅かであっても命の危険がある。燃やした煙を吸っても害が出る。当然見物人達が次々に目眩と吐き気を訴え、戻ってきた放火犯も病院へ運ばれた。そこで手荷物に大振りのナイフとライタ、白灯油を見つかって御用、問い詰められて通り魔の件を自供したのだと。
そんな夢を見た。
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