第百四十一夜   始めたばかりの写真の練習台に野鳥でもと思い立ち、近所の水場へ出掛けた。池に着いて双眼鏡を手にあちらこちらを見回していると、カラスほどの大きさの見慣れぬ鳥が岸辺を歩いているのに出会った。 頭から […]
第百三十二夜   最寄り駅を出て繁華街を抜けると、夏の風鈴の音も、秋の虫の音もない春の夜の住宅街は途端に暗く静かになる。 車の通らぬ裏道の交差点へ差し掛かると、不意に背筋に悪寒が走る。数年前に事故が起き、それを […]
第百三十一夜   たまの休日に散歩へ出て、洒落た喫茶店を見付けた。北欧風の無機質な店内へ入ると、ワイシャツにスラックス姿の女性が接客に現れる。一言二言のやり取りの後、窓際の席に着いて荷物を下ろし、ミルフィーユと […]
第百二十九夜   コンビニエンス・ストアで晩酌のツマミを買った帰り、風もなく温かい夜で気分がよく、夜桜でも眺めようかと近所の公園へ足を伸ばした。 地元ではちょっとした大きさの公園だが、花見客が集まるほど桜が植わ […]
第百二十七夜   北西の強風に吹かれるまま兄弟たちと親元を離れてどのくらい経ったろうか。私のほうが早く飛べる、否、私のほうが高く飛べると競い合っているうちに、随分と仲間も減ってしまっていた。あるものは上手く風に […]
第百十九夜   向こう一週間の食料の詰まった買い物袋を両手に提げ、近所の公園の横の歩道を歩いている。公園との境は背の低いツツジの生け垣になっており、まだ寒々と茶色い枝や幹を晒している。 その植え込み向こうの芝生 […]
第百十五夜   スキー旅行に来た夜のことである。日暮れからひどく吹雪いて、洒落た丸太小屋の軒をかすめる風の音の凄まじさに、昼間滑り疲れた身体を抱えながらなかなか寝付かれずに便所へ立った。 用を足して部屋に戻ると […]
第百十四夜   ハイキングに出掛けて見付けた山小屋風の喫茶店で、静かに珈琲を楽しんでいると、ピィピィと力強い鳥の声が窓外から聞こえた。 それに釣られて庭に目を向けると、冬の陽のよく当たる斜面に黄色い実を付けた常 […]
第百十三夜   荷物を網棚に載せ、吊革を両手で握って目を閉じている。石油ストーブを焚くとすぐに頭痛のする質で、満員電車の酸素が薄いのか二酸化炭素が濃いのか知らないが、やや気分が悪くなっていたからだ。 少々手の痛 […]
最近の投稿
アーカイブ