第百八十七夜

 

父方の祖母の法事で、記憶にある限り初めて父の実家へやってきた。その祖母というのがどうも母と折り合わず、私の物心付くより前に大喧嘩をして以来、ほとんど往来が失くなったのだという。

定型句のように「大きくなって」と言う人物も、父の応対から祖父であると推し量れるだけで、自分の祖父であるという実感はなかった。

特に何をするでもなく、読経をする僧侶の横に正座して焼香に来た客と頭を下げ合って葬式を終えると、居心地の悪さを察した父が気を遣って酒臭い席から逃してくれ、風呂に入って楽な服に着替えた。

風呂を上がったのを察した父に私にあてがわれた寝室へ連れられて行ったのは、古めかしい和箪笥や文机、鏡台の置かれた和室である。

父の指示に従ってその真ん中に父の分と二組の布団を敷く。その片方の上に座り、スマート・フォンを充電器に繋ぐ。これで漸く気が休まるか。

さてもう一仕事と言って襖を引いた父が思い出したようにこちらを振り返り、
「十一時には寝ろよ。便所は夜中に行かなくて済むように、その前に済ませておけ」
と言う。何のことかと尋ねると、
「いや、俺の親父が昔っから、この部屋に寝る人間に同じことを言うんだ。理由はよくわからんが、親父が言うには……」
と壁に掛かった、干からびたような小面の能面を指さして、
「『面が起きるから、日付が変わったら朝まで動くな』だそうだ」
と言った。

そんな夢を見た。