第二百七十六夜   炎天下、同僚達と昼食を摂って社屋へ戻ると、一人脇の植え込みの横を通って裏手の勝手口へ回り、煙草に火を点けた。社内分煙のため屋内は全室禁煙となっており、喫煙所は勝手口の外に設けられたここだけで […]
第二百七十一夜   今年から移った勤め先の最寄り駅の近くに、常連とは言わないが月に数度呑みに行くようになったバーが有る。 落ち着いた雰囲気ながら気障でも成金趣味でもない、かといって垢抜けず貧乏臭さもない不思議な […]
第二百六十三夜   九州から東北までを隙無く梅雨前線が覆って生憎の雨天となってしまったが、ワイパのちらつくフロント・ガラス越しの運転も、大型連休以来久しぶりのデートだから苦にならない。 何処へ行こうかと話し合っ […]
第二百五十六夜   地元だからと案内を頼まれ、ゼミの友人と二人して、最寄り駅から近所の神社へ並んで歩く。 古くから門前町として栄えた地域だが、ここ数年は外国人観光客が急増した。季節によっては、昼のあいだ平日と言 […]
第二百五十一夜   大学で知り合った留学生がパンダを見たいと言うので、上野の西郷像で待ち合わせをした。 地下鉄を降りて地上に出ると、初夏の日差しが目を焼く。階段に腰掛けた似顔絵描きの横を登ると、待ち合わせには十 […]
第二百五十夜   夕刻、外での用事を済ませ、帰社するために乗った列車でラップトップ・パソコンのキィを叩いていると、セーラー服の集団が乗り込んで来て、少々喧しくなった。 若い子の元気が良いのは好いことだと年寄り染 […]
第二百四十九夜   カツ カツ カツ 十数歩後ろを硬い足音が背後から付いてくる。最終電車から降り、駅前の小さな繁華街を抜け、公園の脇の道へ入り、辺りが静かになってからずっとだ。 強姦魔か強盗か、それとも単に家の […]
第二百四十七夜   どうぞと促され、管理人の引き開けたガラス戸を潜ると、古い木板と僅かなカビの臭いが鼻に付く。その匂いは不快というより寧ろ、 「懐かしい臭いですね。僕が通ったのは、こんな立派な木造の校舎ではあり […]
第二百四十五夜   薬品の臭いのする廊下を、足音を忍ばせながら部屋番号を確かめつつ歩く。特に病院が嫌いというわけではないが、非日常的な清潔さ、静かさ、臭いには、どうしても胸がざわつく。 ――あった。 目的の大部 […]
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