第三百十一夜   リビングのソファで上の娘が塾の宿題を解くのを後ろから眺めていると、廊下の戸が開いて柚子の香りが漂ってきた。 続いて寝間着姿の下の娘がロボットのように手脚をぴんと伸ばして登場し、妻がその髪をタオ […]
第三百十夜   トレイに載せたグラス二つを窓際の少女達へ運ぶと、 「ね、最近、生物室で授業あった?」 と聞こえてきた。 私のバイト先であるこの店は大手チェーンに比べて値段が安く、彼女達のような学生服姿の客も少な […]
第三百九夜   朝から電車に乗って適当な駅で降り、ぶらぶらと知らない街を歩いて写真を撮って回るのを趣味にしている。 今日も秋晴れの空の下、赤く実った万両の実やら、それをついばみに来る野鳥やらをフレームに収めなが […]
第三百三夜   疲れているのに目が冴えて眠れない。仕事の忙しい時期になると、時々そんな夜がある。 仕方がないので部屋のテレビを付け、音量を絞る。部屋の灯を点けてしまうと余計に目が冴えるというから、画面の光で常夜 […]
第三百夜   金曜の夜に夜行バスで東京へ来て、一日あちらこちらの庭園の写真を撮って回ると、冬至も近付いて黒々と澄んだ晩秋の空は月の見事な夜になっていた。 明日の夕方には再び高速バスに乗る予定だが、それまでの時間 […]
第二百九十六夜   空きっ腹と夕食の材料を抱えて帰宅し、ワンルームの狭い台所に立って驚いた。つい昨日まで何の問題もなく動いていた電気炊飯器の動作を示すランプが消えている。 恐る恐る蓋を開けてみれば、残業を見越し […]
第二百九十五夜   娘の出し物が終わると、次の種目まですっかり暇になってしまった。妻は一度自宅に戻って昼食の弁当の準備をするからと言って帰宅し、手伝おうかと提案したものの、普段から碌に料理をしてこなかった実績に […]
第二百九十四夜   バイトを終え、バックヤードで着替えていると携帯電話が鳴った。大学の友人の名前を確認し、イヤホンを耳へ刺して通話開始のボタンを押すと、何度も電話をしたのに何故出なかったと苦情が耳に飛び込んでく […]
第二百八十七夜   友人の声に顔を上げ、本を閉じてベンチを立つ。雑貨屋や服屋を見て回るつもりで待ち合わせをしていたのだが、予定より十分早く着いてから三十分も待たされた。 寝坊でもしたかと尋ねると、彼女は私の横を […]
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