第三百十六夜

 

「どうしたの」
と隣の机から同僚に声を掛けられて、口を突いて出た言葉は、
「いや、携帯電話がそこの充電スタンドにあったものだから、びっくりして」
というものだった。

全く要領を得ない私の返答を、正月呆けが抜けないか、それとも何か変なものでも食べたかと言って同僚が笑う。
「いや、それが可怪しいのだ」
と、今度こそきちんと情報を整理して話す。

まず、今この机の充電器でランプを光らせている携帯電話は、間違いなく昼休みに私の鞄のポケットへ入れられて私と共に社外へ出た。

打ち合わせを行う待ち合わせ先の近くで同行する後輩に昼食を奢り、その携帯電話で相手と連絡をとって合流し、少し歩いて喫茶店で打ち合わせをした。

恙無く仕事を終え、これから帰社する旨を連絡しようとしていつものポケットを探り、電話がないのに気が付いた。ひとまず後輩に連絡をさせながら、鞄はもちろんコートから上着、ズボンとあらゆるポケットを探るが見つからない。

携帯電話を失くすなど何時ぶりの失敗かと嘆くのを後輩に慰められながら、紛失関係の手続きを思い出しながら帰社し、机に戻ってみたら、
「ここにあるわけ、この携帯」
と、充電器から外す。
「そんなわけがないだろう、勘違いだよ」
と同僚が笑い、
「飯から帰ってきたときに机の上で充電ランプの光ってるのが目に入って、『ああ、忘れて出掛けてったんだな』って思ったの、覚えてるもん」
と胸を張る。

その後ろへ同行していた後輩がやってきて、
「あれ?携帯見つかったんです?やっぱりどこかのポケットに?」
と首を傾げる。
ちょうどよいところに現れてくれた。打ち合わせの相手との連絡はこの携帯で行ったことを確認すると、
「はい。そもそも僕、お相手の連絡先を知りませんから」
と頷く。
「いやいや、少なくともお前が出ていってから、席に近付いた奴なんていなかったぞ?隣の席の俺が気付かないはず無いんだから」
と譲らない同僚に、
「発信履歴を見てみれば分かるんじゃないですか?」
と後輩が提案し、そうだそうだと同僚が促す。

言われるままに携帯電話を開いて履歴を表示すると、確かに一時過ぎ、私の記憶通りの時間に、記憶通りの相手へ向けての発信履歴が記憶されていた。

そんな夢を見た。

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