第三百十四夜

 

大学のゼミ生が集まって二年参りが企画された。歳のいった教授曰く、彼自身は全く関与していないのだが、学生の側で勝手に始められた、昭和から続く伝統らしい。

カウント・ダウンの一時間前に駅前で集まったときには既に長蛇の列ができており、本殿前でお賽銭を投げ入れ、敷地の外へ出る頃には、やれ暖冬だ、気候変動だと騒がれる割にすっかり体も冷え切っていた。

皆夜店の甘酒を片手に震えながら話し合い、近くに一人暮らしをしている先輩の家へ集まって暖を取ることに決まり、これまた混み合った地下鉄のホームで電車を待つ。田舎から出てきた身としては、三ヶ日だけで本数も僅かといえ、電車が終日動いていること自体が信じられない。

電話回線の混雑が回復したのか、年賀のメッセージが続々届くのを片手で処理しながら雑談をして暫く待つ。そのうちに入ってきた車両へホームの群衆が寿司詰めに雪崩込む。

全員が乗り切れずに分断される訳にもゆかぬというので、十五分ほど先の次の電車を待つことにして、その代わりにホームの最前列に並べる場所を探して、結局ホームの端へ辿り着き、また雑談を始める。
「お、凄い」
と誰かが言い、スマート・フォンのカメラを向ける。何かと思って振り向くと、
「でかいな。ドブネズミ?クマネズミ?」
と先輩の評する通り、暗い線路の脇を数匹のネズミらしき影が走っては止まり、周囲を見回してはまた走りを繰り返す。
「わ、可愛い」
とは同期の女性の発言で、それに思わず、
「ネズミが可愛いって、珍しい感性ですね」
と口にしたのは、女性に限らずネズミを害獣としてしか見ない環境に育ったからだ。
あれやこれやのキャラクタの名前を出しながら、その可愛さを力説する彼女とその味方一派に、
「俺の実家は農家だから、見たら殺す、猫が取ってくれば爺さんが大袈裟に褒めるような生活だったな」
と先輩が懐かしむように言う。別の誰かがその場を丸く収めようと、
「まあ、年の初めに干支を見られてよかったと思うことにしましょうか」
と提案したのだが、
「今の写真に年賀のメッセージを添えて、友達に送ろう」
と彼女が余計なことを閃いて、
「あまり良い思い付きとは思えない」
「やめておけ」
「それなりに珍しい写真なのだからいいではないか」
「冗談に食って掛かる者もあるまい」
と、年を越したばかりの駅のホームの端を賑わす論争へと発展し、電車を待つ間の暇潰しに大いに役立つこととなった。

そんな夢を見た。