第二百四十五夜

 

薬品の臭いのする廊下を、足音を忍ばせながら部屋番号を確かめつつ歩く。特に病院が嫌いというわけではないが、非日常的な清潔さ、静かさ、臭いには、どうしても胸がざわつく。
――あった。
目的の大部屋を見つけ、会釈をしながら入って辺りを見回すと、入り口からすぐ左のベッドの上にサークルの後輩と目が合う。

痩けた頬に力ない微笑みを浮かべる彼女に、「お土産」と手のひら大の熊のぬいぐるみを渡す。その頭を嬉しそうに撫でる指の肌は暗くくすんで、白目も黄ばんで見える。暫くサークルに顔を出さないと思ったら、随分大事だったらしい。
「一体どうしたの」
と尋ねると、肝臓を壊したと言う。
「え?お酒も飲まないのに?」
と驚く。飲めない口ではないけれど、アルコールの味が嫌いで飲まないのだと、合宿か何かの際に聞いたのを覚えていたからだ。
「それが……」
と暫く口籠ってから、小さく肩を窄めて、
「痩せるお茶って、よく広告にあるじゃないですか。あれを……」
と、申し訳なさそうに俯く。商品名を聞けば、薬事法違反か何かのニュースで聞き覚えがあった。

病気で痩けた今はともかく、元々太っていたとは思わなかったと伝えると、短いモヤシのような彼氏に「自分より体重が重い」と言われたのを気にしてのことだと言う。

さっさと別れて、もう少し健康的な体格の男を探せというと、
「見舞いに来ても謝りもしないんで、もう別れました」
と、心なしか力強く彼女は笑った。

そんな夢を見た。