第二百五十一夜

 

大学で知り合った留学生がパンダを見たいと言うので、上野の西郷像で待ち合わせをした。
地下鉄を降りて地上に出ると、初夏の日差しが目を焼く。階段に腰掛けた似顔絵描きの横を登ると、待ち合わせには十分ほど余裕があったが、既に丸刈りのアロハ・シャツが待っていて、私を見つけて長い腕を大きく振る。

待たせたことを詫びると、早くパンダを見たいと促され、人混みの中を動物園へ向かって歩きだす。

チリン チリン

涼し気な鈴の音が後を付いてくるのに気が付く。これだけ人がいるのだ、財布に鈴でも付けた誰かが同じ方向を目指しているのだろう、美術館も博物館も途中までは同じ方向だから、朝一番に向かう人は少なくない。

音の出所が気になって頻りに後ろを振り返る私を留学生が訝しむので、鈴の音が気になるのだと言うと、
「それは僕のだ」
と言って、キィ・ホルダの類のじゃらじゃらとぶら下がった財布を尻のポケットから取り出し、小さな鈴の付いた御守袋を摘んで振り、音をさせてみせる。

浅葱色の地に白い橘の花の描かれたお守り袋が珍しく、
「御守袋って朱色か紺色か白が多いんだけど、それはどこの神社で?」
と問うと、クリスチャンだから神社の御守は持たない、彼女が端切れを買って作ってくれたと言って、袋に刺繍された十字架を太い指で示す。珍しい柄については納得したものの、もう一つ気になって、
「御守というと、交通安全とか、学業成就とか、安産祈願とか、効能みたいなものがあるんだけど、それは?」
と尋ねると、彼女に頼んでお気に入りの四字熟語を刺繍してもらったと言って、袋の裏を示す。

そこには銀糸で『三位一体』と縫い付けられていた。

そんな夢を見た。