第二百五十二夜

 

早朝まだ薄暗い中、駅前の大きな公園で噴水前の広場で軽く準備運動をする。

冬に走り始めてこれまで続いているのは、周りが暗い中を走ると妙に心の落ち着くからだった。だんだんと日の出が早くなるのに合わせて家を出る時間を早めていたら、いつの間にか出勤まで随分と時間に余裕ができてしまった。

適当に体をほぐしてジョギング・コースに入ると靴底へ吸い付くトラック舗装の感触がが心地好い。
ツツジやバラの植え込みを横目に、呼吸を意識しながら腕を振り、脚を動かす。

四角い公園の敷地にコースの曲がり角を丸く取ったために出来た隅の一角に四阿が見える。その下のベンチに野良と思しき黒猫が香箱を作って座り、黄色い目を光らせてこちらを見ている横をゆっくりと走る。あちらも慣れたもので、コースを走っている限り逃げようとはしない。

二キロ分ほど走って広場に戻る頃には随分と空も明るくなって、植え込みの向こうを駅へ向かうスーツ姿もちらほらと見える。整理体操をして息を整えていると、
「いい天気ですね」
と後ろから声を掛けられた。不意のことに驚いて
「ええ、まあ」
と曖昧な返事をして振り向くが、そこに人の姿はない。
空耳かと思い帰ろうとすると、
「こっちですよ」
と、低い位置からする声につられて視線を下げると、噴水とアスレチックを隔てるツツジの咲く藪の中に、人の好さそうな笑みを浮かべた初老の男性の首が生えている。
「良い空ですね」
と空を見上げる首にどう返事をしてよいものかと思っていると、どこからか茶虎柄の野良猫が現れ、その額にぺしぺしとパンチをお見舞いすると、首はすっと煙の散るように消えてしまった。

そんな夢を見た。