第百七十八夜   アルバイト先のカラオケ店へ着くなり、バックヤードで店長から、 「例の部屋、大掃除するから着替えたら来い」 と言われて気が重くなる。 今年の春先から異臭のする部屋があり、利用客から人死が出ている […]
第百七十四夜   夏の終わりにシーズンをやや外れて安くなった学生向けのプランを利用した旅行を友人から提案され、なんとか金と時間の都合を付けて参加することになった。 しかし、ターミナル駅の高速バス乗り場へ早朝に付 […]
第百七十二夜   「この後、幽霊を見に行かないか」と誘われて、思わず、 「は?」 と間抜けな声を上げてしまった。 頭から外した手拭いで顎の下の汗を拭いながら誘ってきたのはこの剣道クラブで知り合った中年男だ。クラ […]
第百七十夜   今日は盆休みの初日だから、朝食後の珈琲を普段よりゆっくりと味わえる。デザートに甘ものをつまみながら妻と他愛ない会話をしていると、小学二年生の息子がようやく起きてきたので、夏休みだからといってだら […]
第百六十八夜   木枝に羽根を休めながら、辺りのクヌギの幹に集る甲虫達を品定めしていると、里の方からクマザサの揺れる音がする。イノシシでも来たかと振り向いてみれば人間の若い女である。里山の森へ僅かに漏れる月明か […]
第百六十六夜   日照り続きで水嵩の減った川の流れは緩く、川面はいつもに増して滑らかに入道雲を映している。 その空に円い波紋が音もなく生まれ、川の流れに間延びして広がる。 アメンボだ。 群れとはぐれでもしたか、 […]
第百六十夜   朝食の片付けをしていると電話が鳴った。急ぎ手を拭いて番号表示を見れば娘の緊急連絡網の上流で、受話器を取る。朝の挨拶を交わした後に相手の告げた用件は、 「数日前の不審者情報で流れた犯人が逮捕された […]
第百五十一夜   日課のジョギングへ出ようと寝間着からジャージに着替えて家を出る。毎朝同じ時刻に家を出るのだが、夏至も近くなって随分と明るくなったのがわかる。気温も高く走っていて負担に感じ始めたので、もう少し時 […]
第百四十八夜   公園の水飲み場に溜まった水で行水をしていると、フィヨフィヨフィヨと聞き慣れぬ声がする。 嘴で翼の羽根を梳かしながらチラと見ると、ここらではあまり見ない、茶色い斑の鳥が降りてきた。冠のような飾り […]
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