第二百十九夜

 

カメラに三脚を持参して、近所の沼にやってきた。越冬に渡ってくる鳥を撮ろうという算段だったが、どういうわけか今日はどこにも姿が見えない。昨年の今頃は、沼の水草を喰むもの、魚を器用に捕らえるものなど、被写体に困らなかったのだがどうしたものか。

一面枯れ草色の沼にレンズを向けるほど芸術家肌でもない。予定は狂ったが今日は早々に退散し、家で暖を取りながら酒でも飲もうと決めて踵を返す。

枯れ草を踏みながら駐車場を目指すと、あちらこちらに空き缶や空き瓶の落ちている。見ていて気持ちの良いものではない。背負った鞄からレジ袋を取り出し、拾いながら歩くことにする。

と、背中のほうで茂みが揺れ、一匹の白猫が擦り寄ってくる。普段は釣り人に魚でもねだっているのか、やけに人懐こい。

頭や首を撫でながら、釣りをしに来たのではないから魚はやれないと言っても通じるはずもない。結局、目に付いたゴミを拾い歩いて駐車場に着くまで、周りをうろうろと付いてきてしまった。

車のトランクを開けて荷物とゴミとを放り込み、記念に一枚とレンズを向けると、白猫は四つの脚を綺麗に並べて座り、お辞儀をするように頭を垂れてからポーズを取る。

アングルを変えて幾度かシャッタを切ると、猫はもう一度頭を下げて、茂みの中へ姿を消した。

そんな夢を見た。

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

最近の投稿
アーカイブ