第二百十五夜

 

深夜、麻雀に一区切りが付いたところで夜食を挟むことになった。

点数の最も沈んでいるものが近所のコンビニエンス・ストアへインスタント食品の買い出しに、二番目の私が湯を沸かして待機する役回りだ。

渋々炬燵を出てアパートの共用廊下に面した台所へ向かい、薬缶に水を注いで火に掛ける。
「ちょっと、換気扇回してくれ」
と家主に声を掛けられ、タバコの煙が充満しているのに気付いて換気扇から垂れる紐を引く。

空気の通りを良くするべく、台所の前の磨りガラスの窓を十センチほど引き開けると、向かいのアパートの廊下で若い女がこちらを振り向き、目が合う。なんとなく会釈をすると、あちらも小さく頭を下げ、踵を返して右手へ歩いて行き、やがて視界から消えると金属の階段を降りる音が聞こえなくなるまで、呆っと外を見続けた。

ややあって階段を上る音がして最下位が「寒い寒い」と言いながら帰ってきた。カップ麺を受け取りながら、帰る途中で女とすれ違わなかったかと尋ねると、そんなことは無いと言う。

フィルムを剥がし、蓋を開けて湯を注ぎながら、首を捻る。

私が窓を開けるまで左、つまりアパートの奥を向いていた女が、目の合った後すぐに振り返って階段を降りていったのは何故だろうか。私が窓を開けるまで、この真冬の深夜に、女は何をしていたのだろうか。

いくら考えても妥当な答えは見つからなかった。

そんな夢を見た。