第二百十一夜

 

正月最初の週末の夜道はいつもに増して人気が無い。新年会からの帰途を独り歩く私の酒に火照った頬や首筋を、空気が冷たく撫でる。

暫し歩いてアパートの入口へ着くと自動販売機でスポーツ・ドリンクを買い、財布を仕舞う代わりにキィ・ケースを手に取って怪談を上がる。上がりきって直ぐ目の前の扉が私の部屋だ。

錠を開けて真っ暗な部屋の中に入り、靴を脱ぎながら電灯のスイッチを手探りして、ふと手が止まる。

ワンルームの部屋へ続く廊下兼キッチン右手側、ユニット・バスの戸の隙間から光が漏れているのに気が付いたからだ。

何か盗まれるような高級品のあるでもないが、不心得者と鉢合わせて怪我でもしてはたまったものではない。物音を立てぬようそっと靴を脱ぎ、足音を忍ばせて戸の前まで行ってノブを握り、覚悟を決めて一思いに戸を引き開けると、そこにはLEDの電灯に明るく照らされた無人のバスルームがあるだけで、不審者の姿は勿論、特に変わった様子もない。
――出掛けにスイッチを切り忘れたか。
そう思って戸を閉め、壁のスイッチに手を掛けて、背筋に冷たいものが走る。

年末の大掃除の折に電灯を動体感知式の電球に取り替えた。以来、中に入れば明かりが点き、しばらく動くものがなければ消えるのが便利で、このスイッチは切らないことにしていたのだ。
――きっと何かの誤作動だろう。無駄な電気代がかかってもいけない。
そう自分に言い聞かせながら、壁のスイッチを切った。

そんな夢を見た。

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