第二百十夜

 

大人達が年を越しても酒盛りを続ける居間から廊下を挟んだ客間に、独り布団を敷いて横になっている。枕の変わると寝付けぬ質で、それでもどうにかうつらうつらし始めたとき、瞼の向こうがぱっと明るくなった。

誰かが襖を開けたかと目を開くと同時に、轟音とともに部屋が揺れる。
――近くに雷が落ちたか。
冬に雨や雪の降ることの少ない地域に住んでいるから、雪景色には喜んだが、雷はどうにも苦手で首が竦み、尻がむずむずと落ち着かない。

仕方なく布団を抜け出し、居間の母に雷が怖いと言うと、大人達は雷などあったろうかと訝しがる。
「慣れない家で寝付かれないで、夢見が悪いのでしょう」
と言って私の手を取る母に、
「片付けはやっておくから、先に寝なさい」
と祖母が声を掛ける。

隣室で寝巻きに着替える母の横で母の布団を敷きながら、
「雷、気付かなかった?」
と問うと、確かに雪は激しいが雷の音は聞いていないという。尚も、目を閉じていてもぱっと目の前が明るくなるほどだったから直ぐ近くに落ちたのだと思ったのにと食い下がる私に、着替えを終えた母はカーテンを開けて見せ、
「でも、この部屋の雨戸は閉まってるから、雷が光っても部屋の中は明るくならないのよね」
と、困った顔をした。

そんな夢を見た。

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