第二百四十九夜

 

カツ カツ カツ

十数歩後ろを硬い足音が背後から付いてくる。最終電車から降り、駅前の小さな繁華街を抜け、公園の脇の道へ入り、辺りが静かになってからずっとだ。

強姦魔か強盗か、それとも単に家の方向が同じだけか。

試しに早足にしてみても、スマート・フォンを弄るふりをして立ち止まってみても、その距離はずっと変わらない。

このまま真っ直ぐアパートまで帰るか、それともコンビニエンス・ストアにでも寄って、様子を見たほうがいいだろうか。

そんな事を考えながら歩くうちに、アパートの目の前まで来てしまった。こんな時間に周囲をまたぐるりと廻るくらいなら、このまま帰宅してしまったほうが良かろう。そう思い切り、肩に掛けた鞄の中でキィ・ホルダを開けて鍵を握り、階段を早足で上ってドアの前に立ち、鍵穴に差し込む。

が、鍵が回らない。血の気が引き、冷や汗が出るのがわかる。階段を上る足音がする。慌てて何度回そうとしても、鍵はびくともしない。鍵を間違えたかとも思ったが、家の鍵に間違いない。

背後の足音が階段を上りきって、
「ちょっと」
という男の声に続いて小走りでこちらに近付く。
――もう駄目だ。
そう思ってその場にうずくまった私の頭上から、
「そこ、僕の部屋ですよ。お姉さん、もう一つ奥でしょう」
と、お隣の若いサラリーマンの声がした。

そんな夢を見た。