第百八十八夜
残業をどうにか終電に間に合わせ、人気の無いベッド・タウンの駅で降りる。
駅前の繁華街は狭く、大通りを一つ渡ると直ぐに薄暗い住宅街へ入る。一定の間隔で街頭が立ってはいるがその間隔は疎らで、蛍光灯からLEDに代わってからは一層、その照らす範囲の外の暗さが目立つように感じる。
ふと、足音が背後から付いてくるような気がした。
自意識過剰かとも思ったが、勘違いならそれでよい、もし何かあればこんな深夜に不用心なのが責められる物騒な世の中なのだから、用心に越したことはない。
そう思って足を速めると、背後の足音も間隔を狭めて、付かず離れず追ってくるので、疑念と不安感も加速する。踵の低い靴を履いていたのは幸運だった。
このまま距離を保って自宅まで、オート・ロックの扉が背後の誰かを締め出すように歩けるだろうか。もし可能だととしても、自宅の位置を知られてしまうのも気持ちが悪い。
この時間に何処か人の居るところといって思い付くのはコンビニエンス・ストアくらいだ。
自宅からは少し離れるが、このまま帰る気にはなれないので致し方ない。右手から来る車がまだ遠いのを確認して、交差点を斜めに渡り右に折れると、直ぐに背後で鈍く大きな音がした。
ブレーキ音もなければ、車の停まって人の出てくるような気配もない。
車が停まらないのだから、きっと野良猫か何かの轢かれたものと思うことにして、気が付いた。
背後の足音が消えている。
そんな夢を見た。
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