第九十九夜

 
初めてデジタル・カメラを買ったという友人から、「新品なのに壊れてるようだ」と連絡が来て、渋々引き受けることにした。

喫茶店で待ち合わせると、気安い仲でこういう物に詳しそうかつ暇そうなのが私だったという失礼な理由を笑いながら告げられるが、確かにこうして呼び出しに応じられる状況にあったのは事実なので、
「何がどうおかしいのか」
と話を本題へ移すことにする。

注文を取りに来た給仕にココアを頼むと、彼女はカメラと説明書とを鞄から取り出して卓に並べ、
「メモリ・カードが認識されないみたいなの」
と言う。
「今、入ってるの?」
と言いながら、本体を手に取りそれらしき蓋を開けてみる。
「うん、付属はしてないっていうから、新品で買って、入れた」
という言葉通り、バッテリの傍のスロットにそれらしいものが挿さっている。その尻を押すとカチリと音がして、カードが押し出される。

本体を卓に置き、説明書を手に取って対応規格を確認するが、問題はない。それを告げると、
「そりゃ、店員さんが勧めてくれたんだから」
と何故か胸を張って威張る。

そもそも「認識されないみたい」とはどういうことなのかと問いながら、カードを本体に挿し直し、電源を入れる。
「そのまんま、カードがありませんみたいなメッセージが出るの」
という彼女の言葉とは裏腹に、画面には空き容量が無いと表示されている。嘘だという彼女に画面を見せて納得させながら、一つの可能性に気付く。

そこへ給仕がココアと珈琲を持ってきたので会釈をして受け取り、一口啜る。カップに息を吹きかける彼女に、
「フォーマットって、した?」
と問うと首を左右に振るので説明する。

記録メディアの多くは、使用前にファイルを保存するための形式を定める必要がある。普通は新品でも、使われることの多い何らかの形式でフォーマットされているのだが、その形式がこのカメラと合わなかったのかもしれない。

本体を彼女に渡し、説明書からフォーマットの仕方を探しながら、次から自分で出来るように自分で操作するように促すと、あちこちのボタンを押して機能の確認をし始めた。

目的のページを見付けて顔を上げると同時に、
「ひ!」
と彼女がカメラを取り落としそうになり、慌てて取り直すと鞄に仕舞う。
「どうした?」
と問うと、
「適当にボタン押してたら、画面にテーブルが映ったの」
と声を震わせる。
「そりゃあカメラなんだから」と鞄からカメラを出させると、レンズ・キャップが付いたままであった。

そんな夢を見た。