第百十五夜
スキー旅行に来た夜のことである。日暮れからひどく吹雪いて、洒落た丸太小屋の軒をかすめる風の音の凄まじさに、昼間滑り疲れた身体を抱えながらなかなか寝付かれずに便所へ立った。
用を足して部屋に戻ると、暗がりに慣れた目にカーテンの隙間が妙に白んで見える。小屋の主が、客間の窓は眩しくないよう、スキー場に背を向けるように設計していると自慢していたのを思い出し、その傍らに立って隙間から外を覗く。
月が出ていた。綺麗な半月であるが妙に明るく、雪原を舞う雪粉を白々と照らしている。
吹雪の夜に月が出ているのかと訝しみ、目を細めてよく見れば、どういう具合か雪雲が、月の半分の辺りで綺麗に一直線に途切れているのだ。その光の妙に強いのは、今日がちょうど満月だからだったと得心が行く。
それにしても見事な雲の切れ方だ。山の峰を吹く風の具合がそうさせているのだろうか。
半分吹雪の月夜。それを誰かに見せてやりたいと、急ぎ荷物からカメラを取り出して窓辺へ戻ると急に暗くなり、雲が迫り出して月の姿を覆い隠してしまった。
そんな夢を見た。
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