第百二十七夜

 

北西の強風に吹かれるまま兄弟たちと親元を離れてどのくらい経ったろうか。私のほうが早く飛べる、否、私のほうが高く飛べると競い合っているうちに、随分と仲間も減ってしまっていた。あるものは上手く風に乗ることができず湿った土に落ちたきり、再び舞い上がれなくなった。またあるものは雌花を見付けて花粉としての責務を果たしに行った。

私はといえば、フラフラと風に乗って遊んでいるうちに杉の森も林も見えなくなり、まあそのまま飛んでいれば別の林でも見つかるだろうと気楽に構えていたところ、林どころか土もほとんど見えぬアスファルトとコンクリートのジャングルにまで飛ばされて、すっかり参ってしまっていた。

背後から聞き慣れぬ声を掛けられたのは、そんなときだった。
「やあ。君達も仲間とはぐれたのかい?」
声の主を振り返ると、彼らは何やら見慣れぬ形状の黄色い粉末で、
「おや、はじめまして。君達は何の花の花粉だい?」
と問う。すると彼らは陽気に笑う。
「いや、僕らは黄砂さ。黄河からはるばる、偏西風に乗ってやってきたんだ」
「へぇ、そんなに遠くから来たのか。おや、色の黄色くないのも大勢いるね、お仲間かい?」
「ああ、これは化学物質さ。旅の途中で拾ったんだ。おしゃれだろう?君達も着てみたいかい?」

そんなことを話していると、不意に風が吹き下ろす。
――しまった。せっかくここまで飛んで来たというのに、僕の旅もこれまでか。

一度下向きに加速の付いた僕らは揃いも揃ってぐんぐんアスファルトの地面へ引き寄せられる。
――ああ、せめてまだ浮かんでいられた幸運な仲間達が、素敵な雌花に出会えますように。
仲間の旅の成功を祈りながら、黄砂君達が次々に人家の屋根や自動車に落ちてゆくのを見送る。
――彼らの旅もこれまでか。僕ももうアスファルトに……
そう腹を括ったとき、不意に上向きの気流に乗る。
――助かったか?
と思う間もなく、どこか薄暗いところで生暖かい粘液に絡め取られてしまっていた。と、我が身に起きた不思議を正確に捉える暇もなく、
「はっくしょん!」
という大きな音と共に、粘液ごと白い柔らかな紙に包まれ、ゴミ箱へ放り込まれてしまった。

そんな夢を見た。