第二百三十八夜   海沿いの友人宅で夕食を御馳走になり、酔いを覚ましていると、もうあちらの子供も床に就く頃になっていた。 挨拶をして玄関を出ると一面の霧で、人家や街灯を包むようにぼんやりと光る他は何も見えない。 […]
第二百三十六夜   郵便受けに掛けられた番号式南京錠と、その中の鍵を回収し、腰のキィ・ホルダに付けながら奥のエレベータへ向かう。間の悪いことにエレベータは最上階で待機中で、上向きの矢印ボタンを押し、意味もなく上 […]
第二百三十四夜   患者の容態が安定し、ほっと胸を撫で下ろしてナース・ステイションで一息吐く。お茶を啜りながら、 「先刻はどうして……?」 と、保留していた疑問を先輩看護師に投げかかける。 小一時間前のこと、ナ […]
第二百二十九夜   帰りの会が終わってランドセルを片手に席を立つと、後ろの席の女子から呼び止められた。 続々と教室を出て行く級友達を早く追いかけたいが、一体何の用かと問うと、卒業式の後、謝恩会で弾くピアノの練習 […]
第二百二十八夜   大きな一枚板の食卓のある部屋で座布団を勧められた。少しふっくらとした体型の女性が、 「こんな田舎まで来て一日船の上でお疲れでしょうに、特別なおもてなしも出来なくて」 と申し訳無さそうに茶を差 […]
第二百二十七夜   フクロウの石像を背に立って文庫本を開きゼミの友人を待っていると、 ――チリリ、チリリ 周囲の喧騒の中で妙に目立つ鈴の音に気付いた。声量は大きくないのによく通る声というものがあるのと同じような […]
第二百二十五夜   暇に任せてカウンタの裏に出した椅子に座って雑誌を読んでいると、店の外からLEDの強い光が目を刺した。駐車場に目を遣ると、見慣れぬ銀色の乗用車が入ってくるのが見える。 椅子と雑誌を事務所へ片付 […]
第二百二十四夜   雨が降って少なかった客も帰ってこれ以上の客も来なかろうと、少々早いが店仕舞いを始めた。 夜食用に水を張った小鍋を火に掛け、レジスタを開けて有線放送を聞きながら札を数えて纏める。 紙幣を片付け […]
第二百十八夜   恐怖の余り、クローゼットの前に立ち尽くしていた。 不思議なことに、あるいは極めて不公平なことに、こうした不思議な現象、それによって惹き起こされる恐怖に出会い易い体質と、そうでない体質とがあるら […]
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