第二百二十七夜

 

フクロウの石像を背に立って文庫本を開きゼミの友人を待っていると、
――チリリ、チリリ
周囲の喧騒の中で妙に目立つ鈴の音に気付いた。声量は大きくないのによく通る声というものがあるのと同じようなものだろうか。

どこから聞こえてくるものかと本から目を上げて音のする方を向くと、ちょうど友人が歩いてくるのが見える。

手を上げて彼女を呼び、待たせて済まない、いや好きで早く来るのだ、今日はいつもよりお洒落だなどと、一通りよくある社交辞令を交わすと、ぼちぼち店へ向かおうと、目の前の階段を並んで上る。
――チリリ、チリリ
再び澄んだ鈴の音がして、どうやら彼女が鈴の音の発信源だとわかる。よく見れば肩に提げたトートバッグの肩紐の根本に巻かれた赤い革のベルトに、小さな鈴が付いていて、それが可憐な音を振り撒いているのだと知れた。
「その鈴、可愛い音がするね。いつもその鞄に付けてたっけ?」
と私に尋ねられて始めて気がついたように鈴を見て、
「あ、また付いてきたんだ」
と笑い、鈴を優しく指で揺する。さっぱり事情の飲み込めぬ私に、歩きながら彼女が説明してくれる。

この鈴の付いたベルトは猫の首輪だという。彼女の生まれた頃に母方の実家で飼っていた猫が産んだ仔で、週末の度にやって来る父親が、妻子に会いに来るのか猫を見に来るのかわからなかったと揶揄されるほど父親に気に入られ、彼女の家で一緒に育ったのだそうだ。家族皆で大いに可愛がり、また随分と長生きしたが、彼女が高校生になる頃に大往生し、家族皆で大いに悲しんだ。
「あの子の形見の首輪だから失くしたりしたら大変でしょ、いつもは家の仏壇に置いて、持ち歩いたりはしないんだけど……」
時折、彼女の家族の誰かしらの持ち物に、知らぬ間に付いていることがあり、そんなときには決まって、他人から指摘されるまで気付かないのだそうだ。

そんな夢を見た。