第二百三十六夜

 

郵便受けに掛けられた番号式南京錠と、その中の鍵を回収し、腰のキィ・ホルダに付けながら奥のエレベータへ向かう。間の悪いことにエレベータは最上階で待機中で、上向きの矢印ボタンを押し、意味もなく上を向いて階数表示の数字が小さくなるのを眺めて待つ。

6の表示が5になる。

都内の狭い敷地に建てられた細長いビルのエレベータ・ホールは、春といえど芯から冷える。元は事務所などの入った雑居ビルだったのが、都内の再開発や観光地化で人気がなくなり、今は窓と屋上からの眺望を売りにした貸しスタジオとしてそれなりの利益を出している。各階毎に和風、西洋風、病院風などの調度品を整えて、それぞれを時間貸ししている。

5が4になる。

基本的に予約はネットで完結し、前金制だ。利用料金の振込の済んだ客の来る前に、郵便受けへ鍵を入れてその暗証番号を伝える。狭い敷地に無理に建てたビルだから階段は外の非常階段しか無く、それも裏路地に出るので誰も使わない。鍵の遣り取りに使う郵便受けへ回るのが手間だからだ。

4が3になる。

利用が終わったら客の返却した鍵を回収し、備品や忘れ物のチェックと清掃をして、必要ならば客と連絡を取る。汚損のひどい客は殆どおらず、面倒といえば各物件を回る時間の管理と、仕事の不規則さ位のものだ。

今日がまさにその不規則な日で、終電間際に終えた利用の鍵の回収に来たのだった。新たな予約のあるでもなく、同じビルに他の利用もなかったから、完全にこの一軒の回収のために夜中に出かけなければならないのだから、仕事とはいえ面倒なことに変わりない。それでも鍵を盗まれるようなことがあってはならないから、利用時間の三十分後までには鍵を回収する規則になっている。

3が2になる。

ふと、頭を疑問がよぎった。
――エレベータは、なぜ六階に止まっていたのだろう。

そんな夢を見た。