第八夜 LEDの強い灯の下、ドラムの回る低い振動音を聞きながら、茶色いビニル張りの長椅子に深く腰を掛けて漫画雑誌の頁を捲る。洗濯機の振動音がこんなに大きく聞こえるのは深夜だからか。大通りの交通量も人通りも、普段この店を利 […]
第七夜 柳の木に背を預けて、ぼんやりと水面に糸を垂らしていると、 「どうですかい」 と右手から声を掛けられた。振り返ると小綺麗な格好のお侍さんが笠をちょいと持ち上げて微笑んでいる。左脇に置いていた魚籠には二匹の小さな鮒が […]
第五夜 目の前に、一本の蝋燭が炎を掲げている。五寸ほどの、すらりと腰のくびれた蝋燭に、つい今しがた自分で火を灯したものらしい。 炎の周りだけが円くぼんやりと橙色に眩き、その外は真の闇。そこには胡座をかいた膝に手を置いて背 […]
第二夜 「ほら、見えてきましたよ」 強いくせ毛に彫りの深い赤ら顔の男が船首の向こうを指差した。指の先には分厚い黒雲の下に赤紫色の遠い空、さらにその下に、 「あれが地獄の観光名所、地獄富士でさぁ」 と男が自慢気に言う通り、 […]
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