第二十七夜 指に巻いた縄を肩に担ぎ、満月の低く昇る山道を登る。酒屋の主人と酒代を負ける負けないを決めるのに指した将棋が長引いて、家路に着くのが遅くなった。勝って上機嫌の奴さんが提灯をと申し出たのを、負けて負からなかった口 […]
第二十三夜 引っ越しの初日、粗方の荷解きを終えて風呂に入った。目を閉じて洗髪をしていると、不意に瞼の向こうが暗くなった。風呂に入る前に特に電気を喰う機械を動かしっ放しにした覚えも無く、一人暮らしの身で友人を招いているわけ […]
第二十二夜 「お客人、お客人」 と涼しくも艶のある声に呼ばれて辺りを見回す。背後には宿坊の濡れ縁、目の前には冬枯れの枝ぶりからも秋の紅葉の目に浮かぶような楓に囲まれ覆われた池の水面。人の姿はどこにもない。 「お目をもそっ […]
第二十一夜 社屋に着くと、入り口のガラス扉の前に制服警官が二人仁王立ちをしていた。社員証を見せると、中で現場検証をしているので規制線の内への立ち入りは現場の警官へ許可を取るようにと言って脇へ退く。 「何か事件が?」 と左 […]
第二十夜 夕暮れ。不意に強くなった西風に追われるように吹かれて背を曲げ、マフラーに鼻まで埋もれながら大学の構内を歩いていると、空一面低い黒雲の垂れ込めて一粒ぽつりと来たかと思えばばらばらばらと俄に勢いを増してくる。 この […]
第十五夜 車内アナウンスで次のバス停の名前が告げられ、降車ボタンを押すよう促されて右手を持ち上げると、先に誰かがボタンを押したようで 「次、停まります」 の声が車内に響いた。 程なく停車し、大学生くらいの五人組、仲の良さ […]
第十四夜 駅からの帰路、小さな交差点を左へ曲がり細い道に入る。街灯が少ないのに応じた分だけ、自転車の灯が強まったように思われる。 小路との三叉路を一つ、交差点を一つ過ぎ、右手に駐車場が見えたところで前籠の鞄からキーケース […]
第十二夜 夕まづめ。ユスリカが羽化をしようと湧いて立つのを食らってやろうと、葦のしがらみの陰から泳ぎ出る。昨夜は上流で雨でも降ったか、水はやや濁って流れも早い。 こんな日は食事に夢中になって流される者が少なくない。すると […]
第十一夜 夜の山道を下り、冬枯れた水田に挟まれた交差点で信号に引っ掛かると、辻を四隅から照らす街灯の明るさに安堵する。山の中に慣れた目には、昼のように明るいといっても大袈裟ではない。人間というのはつくづく昼行性の動物なの […]
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